ささやかな約束
そもそも約束は苦手
自分から口に出すことはない
理由はそれにとらわれるからだ
「ねっ約束よ」
ちょっとのことにもこの言葉を言い放つ人
口癖なら勘弁してよと思うくらい
今日こそは言うよ
「1日一体いくつ約束をしてるんだってぇ」
言われた相手のこと考えてよ全く
「私、生真面目なんだから
あんたとの約束のことばかり気にしていなきゃならないんだからね」
ここまで言ってハッとした
あーっ
たぶん…
祈りの果て
うちのまちは夕日の景勝地らしいよ
この町出身のお天気お姉さんの推しだから
確かにね
私は日没後の光が好き
ほらこの茜色の残照は神秘的でしょ
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特に沼を見下ろす高台は
富士山と夕空と水辺が織りなす絶好のポイント
ラッキーなことに我が家の近く
住み始めて30年、リタイアした今は
この丘へ出向いては夕日で身を清めるのが日課になってきた
黄昏が似合うお年頃になったのかしら by妻
長年の穢れを流し身軽になりたいだけなのだ by 夫
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今年もダイヤモンド富士の時期だなー
夫が浮き足立ってきた一年に数回の特別な日
こればっかりは運と忍耐が必要でどれだけ足を運んでもそうそう見られるものではない
今日は間違いないさ自信たっぷりに夫が誘う
丘の上で 今日こそは と祈っていると
いつの間にか人垣ができていた
ここ数日で1番の人出だ
妙な連帯感が湧いてきていける気になってくる
昨日は直前の雲に惜しくもジエンドだったけど
そろそろ運命の一瞬だ 寒風に身を晒し真剣な眼差しで夕日に集中する人人人
歓声の後に静寂が訪れた丘では動きが止まった
卑弥呼を崇める古代人の様にただ魅入っている
ダイヤモンド富士だ
それもパーフェクトな姿
皆の祈りに応えてくれた
心の迷路
「おいおい考えてから喋れよ」
連れ合いにまた忠告された
「思いつきで行動するなよ
くじ引きじゃないんだから…」
今の私は軽快じゃなく軽率に見えるらしい
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先の先を考えてしまう癖
出口を俯瞰できるわけでもないのに
寝食を忘れて考えるばかりで行動ができない
心の迷路はどんどん複雑になりゴールは更に遠ざかる
何年か前まで自分はこうだった
最適の答えを探して心の中でシュミレーション
まずは一歩、ゆっくり進むことを病と老いから学んだ
1人先読みし過ぎて見えないものに心を注ぐより
まずは一歩踏み出して
ゆっくり進めば周りも見える
引き返す気楽さも生まれてくる
良かれとどんなに悩んで出した答えでも
先のことなんて誰もわからない
人生万事が塞翁が馬
うん、実感してるよ今の私は
ティーカップ
青空高く暖かな陽射し風もない
西の空には透き通った月
こんな穏やかな日は最近珍しい
今日は枯葉色の葡萄棚の下で お茶にしよう
震災後、仕舞い込んでいた箱を取り出してティーカップの薄紙を外す
ソーサー、スプーンもベンジャロン焼き
旅の思い出に皇室御用達窯元で購入した私のとっておき
楕円のティーカップは紅茶の色が映えるんだ
基本のデザインは細やかで一見揃いに見える
こだわりはただの色違いではないところ
縁のデザイン、ソーサー裏、仕上げ、僅かな違いのメッセージに心くすぐられる
夫には群青
私は紫
息子に緑の
娘に黄色のがいいね
若かった家族は揃って大人に成長し
苦難を乗り越えこれが似合う年齢になった
とっておきカップはそろそろ家族用にしてもいい頃ね
そして残った箱がもう一つ
ピンクのこの一客だけがタイ文字付き
あーあ記憶が巻き戻った
オーダーすると受け取りが数ヶ月後だと言われ
それで帰国に間に合わすために急遽店内から選んで持ち帰ったっけ…
当時、来客用は五客揃えが常識だった
それでもうー客、文字がデザインっぽいと遊び心で追加したような…
今なら謎解きは簡単にできると携帯をかざす
Google翻訳がマイコ 来る と読んだ
コパイロットは マキコ と教えた
あーそういうことか
どういうことかって?
知らない方がいい時もあるのよ
気にしない気にしない
さ、とっておきの紅茶を開けますよ
好きなカップを選んでね、お茶にしよう✨
寂しくて
寂しくなるのに好きな歌
NHKみんなの歌で子供の頃から秋に流れていた
誰かさんが…
お部屋は北向き 曇りのガラス
うつろな目の色 とかしたミルク
僅かなすきから 秋の風
昔の昔の風見の鶏の ぼやけたとさかに
はぜの葉ひとつ はぜの葉あかくて 入日色
私の孤独の心象風景となっている童謡
小さい秋みつけた サトウハチロー
しんみりした詩なのに疲れた時にはここ来る
逆に客観的な寂しさはじんわり沁みて癒しをくれるのかも
♪誰かさんが…
心を寄せて一人耳を傾けていると
はぜの実蝋の細い燈が見え始め
そしたら囁きが聞こえてくるの
ねえ息を吹きかけてちょうだいよ
そうそう少しずつねって…
炎がゆらゆらいつの間にかリラックスしてる
セラピー効果があるみたいよ