「叶わぬ夢だ」と口にした途端に
その夢が遠のく
言霊っていうじゃないか
そこのしまった!と後悔したあなた
ワンチャンの壺を知ってるかい
後悔を伴った言霊が放り込まれる場所さ
誰もが一つ持っている
言ったばかりの言葉にはしっぽがついてて
それを掴んで引き戻すんだ
コツを教えろってかい
早いに越したことはない
しっぽは1日で消えちゃうそうだからね
さあ君ならどうする?
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俺かい……….
壺を逆さまにしておくかなぁ
そしたらやり直すチャンスもなくなるよ
えっ そうなの?
じゃあ 壺に入り損ねた言葉はそもそもなかったことにして後悔未練もなしなしなし
はい 御破算で 願いましては〜なんちゃって
お次の夢はできました?
そう簡単にはいくかい
この繰り返しが生きるって事よ
少なくとも俺はね
ツワブキはキク科の花
秋深く庭が色を失いかけていく頃
庭隅のあちらこちらに
黄金色の陽だまりが現れる
それはまるで花束のように群れて咲く
今年も会えたね
それにしても何と温かみのある色だこと
澄んだレモン色に奥深さを加えたような
肌寒い日にはつい引き寄せられるわ
あらあら 今日も先を越された フフ
日本ミツバチたちが可愛い羽音をたてている
コロンとした小さな身体が
バニラに似た 甘い香りを纏うように
上下する
つわぶきの花束は庭に佇み楽しむものよ
花の香りと共に
さあ どうぞ ここにおいでよ
心はとっくに感度が鈍ったよ
加齢とともに折り合いをつける術を身につけて数えきれない欲を手放した結果だな
心穏やかなもんだよ今は
ときめきとざわめきは表裏一体だと実感するね
)そう? で 何を言いたいの?
心も身体も右肩下がりで
家からでないし 孫も来なくなったからさ
隠居生活が隠遁生活さ
それでいいような
いけないような💭
)あなたの人生だしそれでいいんじゃないの
人生百年時代って豪語する人いるでしょ
大概お肉食べて若者侍らせて引き際をわきまえないアレよ
周りからいろんなもん吸い取って 必死で衰えに抗ってるようで私 好きじゃないのよね
)その点あなたは自然体よ
生物の鏡ね
置かれたところで花咲かせ種を残し枯れていく
悪あがきせず潔く下る方に舵をきって
ピンポーン♪
)アッ やまさんだわ
じゃあ 私いつもの麻雀の会へ行ってくる
バタン🚪
潔く死に向かってる?
えっ ……俺一人おいて……
~ザワッ~
心のざわめき
君を探して
飼い猫に生き方の自由が残っていた時代
そう自然の厳しさを知り生き物に寄り添う人々が多く暮らしていた田舎でのこと
外暮らしの猫はゴンタとかミー等 皆色々な名を持ち ロンは我が家の名字で呼ばれていた🐈⬛
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白猫ロン
半世紀以上前に我が家に来た初の猫様
彼の長〜い思い出話
シャンプーをすると美猫に変身
青い瞳 真白に輝くキラキラヘアー
おんば日傘が約束された福猫だったのに…….
何が不服か
度々家出をし
痩せこけ傷だらけで帰って来るようになった
それでも最初のうちは1週間程度だったのよね
ある時
小高い峠の向こうで見かけたという噂を聞きつけ家族総動員で向かった
手分けして探したが会えなかった 当然だよね子供でも1時間以上はかかる道のりだもの
こんな遠くまで来るわけないよ
がっかりとホッとの気持ちを連れて帰宅した
その後も白猫を見たと聞くと情報を頼りに手当たり次第君を探しに行く
そのうち近所では誰もあなたの事を口にしなくなった
風の噂にきくのは矢張り峠の向こう
万が一にもあなたかもしれない
ノラさんのような器用さはない
飢えているに違いない
もう軽く1ヶ月は経っている
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この世にはいないかもと諦めかけたある日
息も絶え絶えあなたは帰って来た
肩や腰骨が浮き立ち痩せこけた姿はあまりにも不憫だった その上脚から血を流している
速攻獣医さんへ連れて行った
その時初めて動物の本能を目の当たりにした
歩くのも辛そうにしていたロンが瞬時に薬棚の上に飛び乗ったのだ 180センチはあったろう 生死を見据えるように殺気立て見下ろした がこちらも必死だ なんとか治療に漕ぎ着け
先生の見立てで犬の噛み傷だとわかった
剥き出しの肌に複数の丸い穴が見えた
中からはまだ赤い血が湧き出ていたよ
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ねこまんまが普通だった当時キャットフード擬きを与え おやつには獲りたての魚を食べさせ看病を続けた
家族の誰一人あなたを責めない
よく帰って来た覚えていたんだねと褒めた
なのに
元気を取り戻すとまた君は消えてしまった
連れ帰っても
途中また野犬に襲われ大怪我をしても
山越えをして隣の集落へ行ってしまう
何故だと不思議がっていた私達に
近所の猫飼いさんがこともなげに言った
きっと彼女がいるんだろうよ
理由はロンがオスネコだったからだで
この家周辺にはずっと前から幅を利かせたノラボスがいるという
それで縄張りを持てなかったんだろうって
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ノミダニと無縁で
お腹いっぱい食べられ
安心して眠れる住処を捨ててでも会いたい彼女ってねえ どんな猫だろう 家族で笑った
つまり もう探しに行くのはやめようという暗黙の了解だった
彼もお年頃になって少しずつヘタレを克服し巣立って行ったのだと
隣の集落では 白猫には飼い主がいるということが知れ渡っていた 以前探しに行くたび挨拶をしてまわったからだ それも安心材料だった
中にはロンと呼ぶ人もいたらしい
半年が一年二年と君の帰宅は次第に遠のいた
忘れた訳じゃなかったよ 時折あなたの様子を知らせてくれる人がいたからね
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ある日
母が受けた電話でロンの死を知った
親切にも私達の事を思い遣った土地の人が訃報を知らせてくれたのだ
農家の納屋で息絶えていたのを土に埋めてくれたらしい
後日両親が農家さんへお礼に出かけ 聞いた
あなたの武勇伝 本能に従いあなたが選んだ生き方 見知らぬ土地でよく生き抜いたね
死に目にも会えず飼い主失格だと思って来たが
それはそれでありだったんだ
猫を飼ったことある?と訊かれたら矢張りハイとは言えない 責任を全うできなかったからだ
でも猫を見守り続けたことはあるよって答えることにした
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30 透明
桜の時期にはクスッとしながら思い出す
透明で深遠な瞳と祝福の彩り
「出て来ないな
ふちょぉー後は頼むよ 花見に行ってくるわ」
担当医の飄々とした声
陣痛の最中 心の声がする
なんでこのタイミングでいなくなるかなぁ
もう生まれちゃうんだけど 先生待ってよー
はいはいわかってます
生まれる詐欺をここ数日繰り返した常習犯ですからネワタシ💭
しょうがない また先延ばしか….. 諦め
アッ😨😱 💥💥💥
『先生出ます!』婦長の迷いない一言
ドアの閉まる音?開く音?
🌸我が子は主治医が取り上げた🌸
そしてめでたい退院の日
ピカピカのグレーのセダンが一台
待ち構えていたかのように横付けされていた 誇らしげな父がおぅと片手を挙げ母が微笑む
【お前が生まれた日に届いたんだぞ!】
【新車でお出迎えだ】
【新しいもの尽くしで春から縁起がいいな】
日頃寡黙な父が上機嫌でまくしたてた
それは名もない赤子への手放しの祝福 だった
田舎の産婦人科は実家から遠く
あなたの初めての花見は父の車窓越しだった
覚えておいてね色とりどりの春景色と弾んだ声
忘れないよ新車の臭いと私を見上げる澄んだ瞳