#永遠に
中程になった風呂の湯に首まで沈み込み、波紋に揺れる自分の体をぼーっと眺める。
眼鏡を外しているお陰で輪郭はぼやけている。
分かるのは色くらいだ。
風呂の壁、浴槽と、体、あの青色はボディタオル。
あっちの銀色は鏡。
この家には永遠に帰ってこないつもりで居た。
20で卒業後。
21までに貯めた金を持って家を出たのに。
30になった今、あの頃感じていた生きづらさはだいぶ薄まっている。
風呂の壁、水色の浴槽、この体さえ憎かったのに。
今はだいぶ良い。
孤独は永遠ではなかったし
自由は思ったより苦労が要る。
只、覚悟だけ握って出た。
同じように風呂に沈み込んだ9年前の自分を褒めてあげたい。
「よくやったな。」
呆れつつ、褒めてやるんだ。
遅い反抗期だったな、と。
#永遠に
「トリックオアトリート!」
元気に言い放つバカにどう答えようか悩んでいる。
一応、菓子持ってる。
けど、こいつがなんの悪戯するかも気になる。
良くて可愛いヤツ。
悪くてぶん殴られる。
もしくは...菓子渡す、か。
「トリックオアトリート!」
仮装完璧!準備も楽しくて本番はやる気満々で飛び出した今!たった今気が付いたんだけど。
ヤッベ。
イタズラって何するん。
ちゅーとか。
いやいや、でも。
ほっぺくらいなら良いんじゃない!?
む、無理無理無理無理無理。
平手打ちするっ、絶対する!
恥ずかし過ぎる!
ーーー
もう一つの物語。
「なぁ、お前どっちに賭けるよ。」
「ビンタに100円!」
「いちゃらぶに100円!」
「ビビって菓子に300円。」
「お前は?」
「俺。行って来るわ。」
「ぅえ?」
「アイツのポケットのブツぶん取って、背中殴ってtrickつって嫁に押し付けて来るわ。」
俺達親友だろ。
モダモダしてるバカヤローの背中を殴り付けても許してくれるよな。
#もう一つの物語り
暗がりの中でテレビも点けずに、小さな間接照明ひとつで過ごす。
目を瞑り足を投げ出して今日あったことを考える。
朝起きて仕事してそのまま畑へ行ってドロドロで帰って来てシャワーとご飯を済ませて。
何したっけってなる。
「じゃあ、今から何しよっか。」
頭の中で無邪気な誰かが言う。
大人になったら消えると思ったのに、この声は何時まで経っても素直で楽しい事をさせたいらしい。
「何しよっか。」
ゲームする。
そして畑作る。村人にあげて人口増やすんだ。
そして就職させる。
わたしは悪徳ハローワークになるんだ。
そしたら明日は仕事休みだから。
パン屋さんで買ったドーナツ食べて、美味しい紅茶飲むんだ。
良いだろ。
「ふふっ、楽しそう。」
#暗がりの中で