【しあわせとは】
家族が膝に毛むくじゃらでふわふわの、かるくて小さいうさぎをだっこしたら、
無口な彼女は、声も出さずにただどきどきとし、
うしろ足に触れるとぷるぷると怯えたようにふるえて、
真っ黒な目をとじる
ぎゅっととじたまぶたのまわりを覆うやわらかくて軽い被毛を、
私が慎重にカットするのをおとなしく待っている
ついでにほっぺたの毛と、おでこのトサカみたいに伸びた毛も切っちゃう
目にかかると涙がたくさん出るからね
おしりとあしのうらとおててと、
左の肩のあたりについたうんちをカットして取り除いたら、
ほっとしたような目で私を見てウトウトしたかと思ったら
家族の手の中で空中を走るみたいにあたふたしたあとに、やっとゲージに解放される
そんなうさぎが、大好物のおやつを食べに私のそばに来るとき、
懸命に走ってくる顔の輪郭がとてもうさぎで、
短い毛の下の体温がほんのりと感じられて、
とても愛おしい
短くなった前髪のおかげで丸くて黒い目に部屋の照明が当たってきらきらする
かわいいねぇと言うと、目を輝かせて
おやつを貪り食べる
かわいいねぇ
ほんとうにかわいいねぇ
今まででいちばんかわいいねぇ
こんなにかわいいうさぎは区内にはいないかもねぇ
など言う 言いまくる
しあわせとは、こういうことだ
【今年の抱負】
ずっとながい間抱えてきた問題を手離す
その言葉、表情、付随する態度、横顔、背中…
私自身を否定されたと思ったたくさんの記憶を理由に自分にかけた呪いを、解く
長年私を縛っていた「らしさ」から自由になって、自分にかけた呪いから解き放たれて、
今ここから始めてみせる
【みかん】
みかん、食べすぎたら手のひらがきいろくなるねんで!
手のひら見せてみ ほらきいろいわ
いいやん、おいしいもん
雪がしんしん、除雪車のエンジン音、ストーブのにおい
そういう思い出を作っていくばん
【冬はいっしょに】
普段はひとりでもいいねんけど、今日は
いっしょに行かへん?
本屋さん行くねんけど。え?覗くだけ。そのあとコーヒー飲みに行こかなって。ほんで雑貨屋覗きたいし、時間あるなら行こや。
ひざ掛け見たいねんな、ほら、あるやんあったかいやつ。…そうそう、フリースになってて、アウトドア用みたいなんじゃなくて、、そうそう、それそれ。
柄?そやなぁ、やっぱ、チェックかな。えーー、なんか、あこがれ?チェックへのあこがれ。
冬って誰かと行くんが楽しくない?
さむいなーとか言いながら歩くん、楽しいやん。なんでやろなー?不思議やんなぁ
あぁ、それはあるかも。ちょっとさびしくなるんかも。年末感あるしな!
【風邪】
風邪をもらった。
あれだけぴったり寄り添って眠っていたのだから当然だ。
鼻づまり、喉の痛み、突然の高熱、一晩で解熱、あとからくる倦怠感、見事なまでにすべて同じ。ここまで同じなんてと、可笑しくて笑う。
息子はからだが大きくなったいまでも、不安なときには私に抱きつく。外出先では手をにぎる。就寝中なら布団にもぐりこんでくる。
幼い頃の私は母親に抱きつくことができなかった。気恥ずかしいから余計に不安で、ぎこちなく回した腕の細部にも気を遣った。そういう時代だったのだ。
だからなのか、いまの息子の様子を見ているとほっとする。甘えたいとき、頼りたいときに、戸惑うことなく触れることのできる大人になれたのだなぁなんて。
それと、小さな自分も抱きしめているみたいで、ふたり分の心を温めていることにやさしいきもちになる。
そしてひとりピンピンしている夫。
いや、助かるのだ、元気でいてくれて。本当に。