【永遠に】
昔からこの言葉が苦手だった
流行りの歌の歌詞、永遠を誓う、永遠に愛す
なんてのも、つくづく幼稚で陳腐だなと思っていた
私の前には永遠は現れたことはなかったし
永遠を感じられるサイクルになかった
ひとは変わるし、日本語も変わるし、
法律も変わるし、流行も変わるし、
季節も変わるし、景色も変わるし、
友情も変わるし、見え方さえ変わる
私自身が変わっていくというのに
永遠に続くものは、なにひとつない
唯一、それなら在ると思うことができるのは
時を止めた時に初めて生まれるもの
としての永遠
あなたのかおり、
あなたの声、あなたの体温、あなたの気配
【もうひとつの物語】
もしあっちを選んでいたら、
もしあっちを選んでしまっていたら、
って思う時に、
むくむくとわきおこるストーリーがあるよね
あの手を離してしまっていたらと想像してゾッとしたり
目を逸らさずにいたら今ごろひょっとしたらと後悔したり
あの電車に間に合ってさえいればと嘆いたり
そうだ、あの時それで気づいたんだ
今日の最善の選択が、明日の自分の道をつくる
明日の自分が、今日の選択を最善にする
もうひとつの世界に、いつもはげまされてるって
【どこまでもつづく青い空】
見える限りずっとずっと奥まで、ずっと青い空
まだほんの幼児の頃、父に連れられて
丘の上から飛行機を飛ばした
当時流行していた大きな木のラジコン機
さすがに上空で乗ることはできなかったけれど、
地上でまたがることくらいはできる大きさだった
丘の上からの景色は、今はもうない、おそらく
眼下には刈取の終わった田んぼがひろがる
思い出すたびに丘は高くなるようだ
嬉々として飛ばされた機体は、吹き上げる初秋の風に煽られ、頼りなく回転しながら
田んぼの土の上に容赦なく墜落した
そしてぽっきりと右翼が損壊した
その田んぼがどこの誰の持ち物だったのか、
あの丘はどこの丘なのか、
あの空はどこで見たのだったか、
夢の話なのか、想像の話なのか、
薄い水色の空がずうっと向こうまで続いている
【衣替え】
白いシャツが黒い詰襟に変わる日を忘れられない
禁欲的なその佇まいはうっとりするほど美しくて
自分は永遠に着られないその上着の下の体温に憧れた
あなたほど、詰襟の似合うひとはいなかった
あなたのようになりたかった
凛として寡黙で、時々子どものように無邪気に笑う
【秋晴れ】
小鳥のさえずりが響く
声のしたほうに、その姿を探す
窓から見える公園の木々は、もう初秋だというのにまだまだ元気いっぱいだ
四方にのびた枝をおおっている艶のある深緑の葉が、
かわいた風にざわざわと揺れる
葉っぱの色のうすいところがきらきら光って、初夏みたいだなと思う
その大きなクスノキの枝のなかで、小鳥が鳴いているみたいだ
ここから見る景色がすきだった
なんていい気分なんだろう
こんなに心が軽いのはひさしぶりだ