【秋晴れ】
小鳥のさえずりが響く
声のしたほうに、その姿を探す
窓から見える公園の木々は、もう初秋だというのにまだまだ元気いっぱいだ
四方にのびた枝をおおっている艶のある深緑の葉が、
かわいた風にざわざわと揺れる
葉っぱの色のうすいところがきらきら光って、初夏みたいだなと思う
その大きなクスノキの枝のなかで、小鳥が鳴いているみたいだ
ここから見る景色がすきだった
なんていい気分なんだろう
こんなに心が軽いのはひさしぶりだ
【忘れたくても忘れられない】
覚えていたくても覚えていられない
システムの内容も、受診の日時も、聞きたいことも
あかんなぁ
忘れるためには、思い出さないことが大切なんだとか
思い出しそうになったら、そのキッカケをぷつっと切る
覚えるためには、その逆?
「そのロジックは組んでないから」とか言ってたな?
なかなかむずかしいな、
興味のないことを思い出そうとするのは
【高く高く】
高く、高く、大きく、もっと大きく
枝を広げ 幹を伸ばし
葉っぱから根っこの先まで
太陽と風と大地を
からだいっぱい吸い込んで
真夏の樹のように いのち輝くとき
その歌で今をつくり
そのことばで今をひらき
我ら 爽やかに育つだろう
たかく、と聞くと思い出されるこの歌
大好きだった音楽の先生、
自然と人間を讃える優しく力強いうたをたくさん教えてくれた
今でも、あの時のピアノが私のまんなかを守ってくれてます
【子どものように】
身体がおおきくなった今でも、不安になったりプレッシャーを感じると私の手を握ったり、明け方に布団にもぐりこんできたりする甘えたがりの我が子
温かな体温、静かな寝息、まだまだ子どものやわらかい頬にふれながら、きっとこんなふうに母親に甘えてきたんだろうな私も、と思う
ベランダで月を眺めながら煙草を燻らせていたあの頃を思う 寄る辺のない自由さと自分への嘲笑とつきまとう孤独感は、煙草と同じくらいニガくて煙草と同じくらい癖になって、まるで悪い情夫のように離れられなかったものだけど
今はもう要らないかな
ベランダで飲むのは、大きなマグカップのカフェオレ、暖かいストールとセーターで
この子が、あたたかな世界で生きてくれることを祈る
この子をとり巻く世界が、いつもこの子に優しくあるように、子どものように祈る
【カーテン】
ひとりで暮らし始めた時に使い始めたのは、黄色と白のチェックのカーテンだった。母親が選んだ。
田舎の生まれだった私には気候のいい昼間は窓を開ける習慣があって、風の抜け道、あるいは入り口をつくるために玄関ドアは開けておくというのもまた然りだった。
京都の入り組んだ細かい間取りのなかを、思惑どおり初夏の風がぬける。掃き出し窓のカーテンがゆれる。まだ、京都の夏の暑さを知らなかった頃だ。
床に寝転んで、揺れるカーテンを眺めていた。
ラジオからは、ヘビーローテーションに選ばれた曲が何度も流れて、その歌詞が胸に刺さった。
カーテンが揺れて、メリーゴーランドが回る。
誰のなんという曲だったのか覚えていない。
その続きで流れてきた曲は今でも覚えているのに。
忘れてしまったほうがいいことがたくさんある。
でも、あの曲名は今でも探している。
ずいぶん遠くまできたんだ。