【踊るように】
衣裳場の娘が、劇場の舞台に憧れながら歌う歌がある。彼女は修繕に出されてきたドレスを胸に抱きながら、独り言のように歌い、躍り、無邪気な妖精の鱗粉のように光を散らす。
踊るように生きたい。
あの妖精みたいに。
【貝殻】
子どもの頃、よく砂浜で貝殻をあつめた。波のかたちに線になって貝殻が打ち上げられているところを見つけたら、自分好みの貝殻を探すのに夢中になった。
私は薄紅色の二枚貝がいちばんすきだった。白ければ巻貝も好きだった。大きいものはめったになくて、ほとんどが小さい。ハンカチに包まれて、あるいはポケットに放り込まれて、自宅に連れて行かれたそれらは、しばらくは学習机のひきだしに入れられていたけど、いつのまにかどこかへ消えてしまった。成長の過程で私に処分されたのだろう。
浜辺のあのさらさらの砂が、ぜんぶ貝のちいさな粒だったらいいな。
公園の砂場に這いつくばっているときに、ふと貝殻を見つけると、あ!と思う。
きらっとした何か、ちいさな何か、貝殻以上の存在感のあるそれ。
【些細なことでも】
最近得た確信、とても些細なことだ
選ぶ言葉ってそのひとの立つ位置や所属する共同体、その集団がもつ潜在的な価値観みたいなものを指し示す座標みたいなものだ
今朝「界隈」が若者のあいだで流行っていると情報番組で放送していた
使うことによって共通意識が芽生えたり、その言葉だけで通じるものが多くなったりするそうだ
みんなお互いに自分と同じっぽいひとたちと仲間でいたいんだな、引き込んだり、引き込まれたりしながら
逆に考えると、その言葉を使っているというだけで周囲からは「その集団のもつ象徴的な価値観」を体現しているように見える、ということでもあるよね
日々触れるいくつかの共同体の価値観、それに裏づけされた言葉のチョイス
ここですこしリセットする機会をもらっているのは、とてもありがたいことです
【不完全な僕】
私はあきらめない
今日は昨日の結果で、昨日はおとといの結果なんだ
今日が明日をつくる
今日が昨日を肯定する
自分を愛すること、信じること、
今日の自分を愛せたら、昨日の自分を肯定できる
今日の自分を許せたら、昨日の自分をほめられる
そうやって自分を愛することを学んでいく
ほら、私たちはみんな階段の途中、
みんな不完全だ
【突然の君の訪問】
突然の訪問者といえば
子育てのありがたいお話云々のおばさまたちか、
テレビの受信料のおにいさんたちか、
息子の友人たちか…
今日はひさしぶりにベランダへつづく窓を開け放っていたから
近所の公園の藪から虫の音が聞こえてきた
そういうのも訪問者
戸惑うような訪問は最近受けていない
約束もなく、連絡もなく、ひとり暮らしの玄関に立つ君を見る
そんな過去が私にもあったろうか