【日差し】
その日は薄曇りで、
決して日差しが強いわけじゃなかった
いや、むしろ日差しは弱かった
日傘だって要るか要らないかの境目で
だから油断したんだ
心を開いてしまった
肌にはくっきりと、日焼けの跡
みんなに平等にふりそそく日光で
勝手に火傷なんてはずかしい
私だけ打たれ弱いみたいで
私だけ幼かったみたいで
そのときはいつだってすこしずつ近づいてくる
それと気づかないほどゆっくりと
当たり前の顔をして
そして、気づいたときにはもう引き返せない
ヒリヒリ火傷に軟膏をぬりこむ
痛かったことにすら、いま初めて気づく
まだ赤い
いつまでも赤みが消えない
【窓越しに見えるのは】
校舎の三階の窓辺にすわって勉強していた。
解き終わった後に顔を上げて、ちょっと外を眺める。
夕暮れの空を見て、マロニエの並木を見て、グランドを走り抜ける姿勢の良い君を見る。
あぁ、なんて綺麗なフォーム。
【入道雲】
とあるひとにすっかり心を占領された
見れば見るほどなんて神秘的
あのひとのちかくに行きたいな
あのひとに触れてみたいな
そんなことを思う自分が浅ましく疎ましい
むくむくと頭をもたげるその思いは罪悪感にも似て
こわいから制服のしたに隠して帰ろう
だれにも見つからないように
だれにも見つからないように
【夏】
夏が好きじゃない。
きらいなわけじゃない。好きじゃないだけ。
四季の中で唯一、思い入れがない季節。
思い出も特にない。だから思い返しても香りがしない。せつなさなのない季節なんて。
芳醇な香りのする季節が好きだ。
つまり、初夏も、晩夏も好きだ。
盛夏は、想像するだけでくたびれてくる。
夏の風という歌を、小学校時代に習った。
夏にふき込んでくる風の爽やかさ、清涼感。
無邪気に空中を走り回って、樹の枝を大きく揺らす。
雲を走らせ雨を呼び寄せ、雷をつれてくる。
ただ夏の風を褒め称え、おもしろがってる歌。
その歌だけが、私の夏だ。
あぁ、でも、
祖母の家の土間の向こうに見えた赤い花は覚えてる。
夏の真っ白な日光の下で、やたら鮮明に咲く赤い花。
【ここではないどこか】
静かに物思いする時間に相応しい一説
この一文を、どこかで見かけたような気がする
どこだったかな
あの詩集だったか、あのエッセイだったか
もはや誰のものでもない、みんなの一説
ビールでも飲まないと照れくさくて使えないほどクサい
だけどあまりに生々しい一説
薄目で見たくなるほど痛々しい一説
なにかがわかってしまうような一説