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6/28/2024, 11:44:14 AM

【夏】


夏が好きじゃない。
きらいなわけじゃない。好きじゃないだけ。
四季の中で唯一、思い入れがない季節。
思い出も特にない。だから思い返しても香りがしない。せつなさなのない季節なんて。
芳醇な香りのする季節が好きだ。
つまり、初夏も、晩夏も好きだ。
盛夏は、想像するだけでくたびれてくる。

夏の風という歌を、小学校時代に習った。
夏にふき込んでくる風の爽やかさ、清涼感。
無邪気に空中を走り回って、樹の枝を大きく揺らす。
雲を走らせ雨を呼び寄せ、雷をつれてくる。
ただ夏の風を褒め称え、おもしろがってる歌。

その歌だけが、私の夏だ。

あぁ、でも、
祖母の家の土間の向こうに見えた赤い花は覚えてる。
夏の真っ白な日光の下で、やたら鮮明に咲く赤い花。

6/27/2024, 12:34:16 PM

【ここではないどこか】


静かに物思いする時間に相応しい一説

この一文を、どこかで見かけたような気がする
どこだったかな
あの詩集だったか、あのエッセイだったか
もはや誰のものでもない、みんなの一説
ビールでも飲まないと照れくさくて使えないほどクサい
だけどあまりに生々しい一説
薄目で見たくなるほど痛々しい一説
なにかがわかってしまうような一説

6/26/2024, 12:29:48 PM

【君と最後に会った日】


あのひとと最後に会った日、私は笑っていましたか。
あのひとを罵りはしなかったでしょうか。
あのひとに感謝を伝えられたでしょうか。
私を愛し続け、私を縛り続け、私に頼り、依存して
ひとりで旅立ったあのひと。
あのひとの少女のような笑い声。
最後になるだなんて、考えもしなかった。
後悔とも懺悔とも、諦めともつかない感情に安堵が加わって、ぎゅうっと胸が締めつけられます。
でも、もう涙は出ない。
あのひとに最後に会った日、またね、大好きだよと
また会おうね、と約束したのですから。

6/25/2024, 10:01:39 PM

【繊細な花】



だれにも話したことのない物語を持っているように
息をついたりうつむいたり目を細めたりしながら
花の名前について、ゆっくり話そう

もったいないからずっと奥のほうにだいじにしまってあった物語

あなたにはその花の名前を知る理由がある

6/24/2024, 12:11:11 PM

【1年後】


過去の自分を呪って、
自分の稚拙さを悔やんで、
泣きながら思い出を睨みつけ、
最新の情報に更新し、
冷静に、静かに、息を整えて、
見えていないものを保留して
やっと1年経った

1年経ってようやく、愛していたのだと知った
信じていた、おそらく、たぶん、
家族みたいに
それは印籠のように、罪の意識への免罪符になる

ばかなひと
何があったか知りもせず
息絶えるまで赤信号につかまっていればいい
なぜそんな目に遭うのか知りもせず

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