社会の喧騒から離れた、自然豊かな地。
そこにひっそりと佇む、冷たい石塔。
恩師の眠る場所。
静かなそれへ、わたしは祈りを捧げた。
もう、この人がいなくなってから幾許か……必死に日々を過ごし、生き延び、気が付けばこんなに時間が経ってしまっていた。
あなたの導きを受けなくなってから、それ程の時間が経っている——
「——わたしはまだ、まっすぐ歩けているだろうか」
そよ風が、わたしの頭を撫でて行った。
仄かに暖かかった気がした。
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それでいい
幼き日より好んでいた作曲家の、新曲がもう二度と聴けないのだと分かった時。
その言葉にし難い、悲嘆の心。
生きてゆく上で、避けること叶わないもの。
その痛みは、わたしがまだ死んでいない証だ。
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大切なもの
「お前のこと興味無いんだわ」
「こっちこそおめーに興味なんかねーわ」
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エイプリルフール
花を一輪、買った。
バラの花。贈り物用のラッピングも、してもらって。
ただ、渡すだけだ。別に想いを伝えるわけじゃあない。
渡すべきその人とよく会う場所で、……ああ、会えた。
その人に声を掛ける。さも偶然会ったように、そして……
「余りなんだ、一つあげる」
花を差し出す。
その人は特に表情を変えることなく、無機質な感謝の言葉を述べて、花を受け取った。
受け取ってもらえたので、自分は別れの挨拶をして、その場を去った。
目的は達成した。
あとはただ、帰るだけだ。
…………
「……バカな人。
耳真っ赤にして、"偶然"だなんて嘘ついて。
……本当、バカで……可愛い」
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何気ないふり
胸に刃が突き立てられた。
わたしを必ず仕留めんとする、討伐隊員の必死の形相——これが最期の景色となるのだ。
これで、これで良かったのだ。
世に厄災をばら撒くことで、
その原因たるわたしへ目が向けられた。
そして、分かりやすい悪性存在を前に、人々は団結した。
手を差し伸べ合い、今を乗り切り、奴を討てば必ず救われると。
未だ啀み合う人はあれど、それでも以前よりは良くなった。
だから、これで良かったのだ。
これで世は、良い方向へ向かうだろう。
心残りなのは、その世界の行末を、この眼で見ることが叶わないことだけだ。
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ハッピーエンド