ねぇ…お願い…
声が枯れるまで抱いて…
ねぇ…お願い…
抱いてて…
すべて消えないように…
心遠く飛ばされないように…
あなたのすべてで…
お願い…
抱きしめていて…
声が枯れるまで抱いてて……
……
ねぇ…
僕のすべてで抱きしめるから…
離さないから離れないから…
ねぇ…泣かないで…
お願い泣かないでくれ…
永久に抱きしめるから…
お願いだから笑ってよ…
笑ってくれ…
笑顔をみせてくれないか…
そう…
始まりはいつも突然ねぇ……
本橋さんは変わらないのね!
そのままねぇ…
その笑い方もねぇ…!
今日ね…
今日私がね…
ここに来たのは…
下の子が初めて
相手を連れてきて…
どうして良いかわからなくなって…
旦那がいた頃には気づかなかった…
上の子が相手を連れてきてた時は
まだ旦那がいたからね…
1人になった事を再認識させられた感じです
あぁ…私…1人ぼっちなんだと…
本橋さんは…
寂しくないですか?(笑)
あぁ…ごめんなさい…
こんな事を聞いてしまって…
私は歳を重ねても
デリカシーは有る方と思ってたけど…
ため息が…はぁ、
僕も…そうですよ…
寂しくて、1人の食事は特にね…
辛くて辛くて
わかりますよ…
その気持ち…
もし僕で良ければ話して下さい!
何でも話して下さい!
ゆえ子さん…
おぼえてますか?
あのニュースで世間が大げさに騒いでいた頃…
俺は…
先生がかけてくれた言葉に…
救われて…
教室へ通う度に…
先生に心奪われて…
先生に会う度に
心奪われて…
俺は…
あの時…
夕暮れの海の見える教室で…
先生へ…
ゆえ子先生に…
ねぇ…先生…
あの日の言葉は…
どうして…
あの時の涙の理由は…
あの時…
あの子は私の長女ですよ…
前の旦那さんと調停までして
別れた時ね…
男と女のすれ違いですねぇ…
子供が…
あぁ…孫ね……
当時ねぇ…
孫がね一緒に泣いてたの…
せめて長女と孫がね…
すれ違いにならないように…
お祖母ちゃんも色々あって大変なんですよ!(笑)
あっごめんなさい…
本橋さんも離婚されてたのよね…
ごめんなさい…
僕の事は気にしないで下さい…!
私から切り出した事ですしね、
僕こそごめんなさい…すみませんでした
本橋さんは変わらずに…
彼の言葉に気持ち晴れて
今 彼は社会人ラグビーの下部リーグで
あれから栄養士を取り
選手の体のケアを担当していて
奥様とは別れていて子供さんと
月に2回 お嬢様と会っていて
お好み焼きを焼く事を楽しみにしていると
本橋さん…公務員辞めたんですね!
主人が役所勤めしていたので
私は親近感を感じてましたよ!
今のスラッとした感じも素敵ですけど!(笑)
ゆえ子さんも素敵ですよ……!
ほんとに素敵です!
ほんとに…(笑)
もうすっかりおばあさんですよ…(笑)
嘘でも冗談でもねぇ…嬉しいですよ…(笑)
おばあさんにそんな事を言ってくれて…♪
ほんとに素敵です!素敵なんです!
(笑)ありがとう…♪
実は少し前に…
ゆえ子さん見かけてたんです…
残暑厳しい夕立の黄昏時…
ゆえ子さんが星河銀行の隣の喫茶店で…
…すみません
聞きていいかわからないけど…
いや…あの時に
話しかけられなくて…
ゆえ子さんが若い人と泣いていて…
俺は…
忘れたはずの…
優しい眼差しが微笑みかけてきた
あの…
ゆえ子先生ですよね…!
私の名前は 本多ゆえ子
先生と呼ばれるのは久しぶりだった…
学費と介護の費用が大変な時期に
数年間だけ外国語教室で
私はパートで先生と呼ばれる仕事をしていた
その時の生徒さんだぁ…
確か…
県の廃棄物処理センターで
設備保全の仕事をしている
明抜けた気さくな方…
私は瞬間的に記憶の片隅から
そんな事を思い出した…
ゆえ子先生ですよね…?
先生ですよね?
本橋です!本橋遼太です!
おぼえてますか?
彼は私の前に立ち…
優しげな声をして笑いかけてくる…
先生はまだ教室の先生をしているのですか?
彼は更に優しげな眼差しで話してきた…
私は正直に今を話した
今は私は北口のショッピングモールで
荷物搬入の事務をしています
旦那が他界して気持ちを埋めたくてね
旦那と多く過ごした時間帯の
昼過ぎから夜間にかけて働いていますよ
もう語学の仕事はまったくしてないのよ!
本橋さんは確か公務員でしたね
相変わらず元気そうね!
ほんの少しだけ間があり
彼はまた優しげな眼差しで話し出した…