過ぎ去った日々を買い取ってくれる店があると聞いた。
買取希望の人間はまずどんな金額でも文句はないという書面にサインをさせられるそうだが。
それにサインをすると五分と経たずに記憶を売り払うのだという。
なにせ書面にサインをした以外、過去のことは覚えてないのだ。
私も買い取って欲しくて方々探し回った。
しかし一向に見つからない。
どうにか友達の案内でたどり着いた先、店主がため息混じりにいう。
「あなたからはね、買い取れないんですよお嬢さん」
過ぎ去った日々
お金より大事なもの。
聞かれて思い浮かばなかった。
でもそれがあまり好まれない回答だと知っている私は咄嗟に、ありすぎて難しいねと笑う。そうすればそうだねと追求を免れた。
でも絶対に何か一つ答えなければならないらしい。
本当に困ってしまった。
「愛、かな」
ありきたりな答えとはすなわち一般的とも言える。
友達は納得したのかようやく質問から解放された。
月夜に現れた男が兄を訪ねてきた。
見知らぬ男である。
兄とは小中高と一緒だったので交友関係は互いにうっすらと把握していた。そのはずが男に見覚えがない。大学は流石に別々だったため大学からの付き合いだろう。
一応名前を聞いた。
苗字だけだったが男友達などこんなものかと2階に上がった。
兄は来客に気が付かずに動画を見ている。呑気な事だと羨みながら来客を告げる。約束にない来客にやはり首を傾げていたが名前を告げると血相をかいて階段を駆け降りた。
絆に助けられたと感じる瞬間は多い。
何せトラブルの絶えない身だ。用心しようと何かしらあった。
その度に乗り越える助けに恵まれている。
助けられたからには恩を返したい。
これから語るは、受けた恩を返すべく訪れた地で起こった事件の話である。
たまにはと外食を決めた。
帰れば作り置きがあるがそれは明日の朝だ。
どうして急な予定変更したか。わかっているだけに落ち着かない。
だが決めた以上思い切って大通りを歩く。
店は決めているため然程迷うことなくたどり着けた。
目的の店はアイドルがドラマで出演した時のロケ地だ。
数ヶ月前に心を奪われドラマでこの店を知った。
いざと意気込んでみたものの若いお嬢さんでごった返している。
たまには、などというのりでくるものではなかった。