らくとあいす

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4/21/2026, 10:27:00 AM

「〇〇があれば他には何も要らない」
何か譲れないものがある時、そう表現する事がある。
大切なものがあれば、あなたがいれば、……「他には何も要らなくなる」と思えるほどのものと、そう思う価値観と言うのは人によって違うだろう。
しかし、実際問題として「何も要らない」と言うのは現実的ではないと思う。人間は酸素がなければ窒息死するし、食物が無ければ餓死してしまう。

果たして、何か一つの物事の為に己の命を投げ出せる人と言うのはどれ程いるのだろうか。
何かと引き換えに命を差し出す人はいるかもしれないが、引き換えですらないのだ。あなたがいてもいなくても、何かをしてもしなくても、変わりなく存在するものの為にただ死ぬ事を人は選べるのだろうか。

かく言う私の目下には今、自身の想いの為に命を散らした死体が一つ、転がっている。
それこそ「酸素すら不要!」と喚き散らしながら大きめのレジ袋を頭に被り、随分滑稽な事切れ方をしていた。
馬鹿だと思う。愚かだと思う。
こんな死に方をするくらいなら、理不尽な世の中に苦しんで、現世から逃げる為に死んでくれた方が何百倍も納得出来た。

「君さえいれば他には何も要らない」と言ったあなた。
私が言った言葉を忘れたのだろうか。

「私も、あなたさえいれば他に何も要らないわ」

ねえ、「あなた」がもう、この世界のどこにもいないの。
あなたが「あなた」を奪ってしまったの。
どうしてそんな簡単な事も分かってくれなかったの?
どうして、どうして。
何よりも必要なあなたがいなくなってしまった私はどうすればいいの。

遠くから聞こえるパトカーの音を聞きながら、霞む視界でただ、転がった死体を眺めている事しか、私にはできなかった。