『あじさい』
家の前の公園に、紫陽花が咲いた。夏に近づくこの季節。
鬱蒼と茂る深緑に、大きな紫陽花はよく映えた。
花言葉は「家族」「団欒」。他にも意味があった気がするけれど、好きな言葉は頭の隅に残りやすい。他の意味は思い出せなかった。
「ただいまー」
誰もいない部屋に向かって、大きな声でただいまを言う。
家に誰もいなくても、『行ってきます』と『ただいま』は言うようにしている。悪い人が来なくなるからって、お母さんがよく言っている。
ランドセルを机の脇に下ろし、中から宿題を取り出す。
今日の宿題は感じの書き取りと計算問題。あと音読。
今日は金曜日で、6時30分から「妖怪ウォッチ」が始まるから、それまでに宿題を終わらせてしまおう。弟もそろそろ保育園から帰ってくる。
もうすぐ、私の家にも紫陽花が咲く。
「好き嫌い」
クーラーをつけると、小学校の夏休みに引き戻されるような感じがする。ダラダラしたいという気持ちと、宿題をやらなくてはならないという焦りとが入り交じる。それは、大学生になった今でも変わらなかった。
私は大学で心理学を学んでいる。ずっと気になっていて、でもなかなか手を出せなかった分野。心理学を学べることはとても嬉しいし楽しいのだが、定期試験への恐怖やら不安やらはこれまでと全く変わらない。怠け者の私は試験がないと勉強しないだろうから、最近はありがたいとも思うようにしているけれど、嫌いなものは嫌いなのだ。
とりあえず、一科目。
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『透明』
透明なガラスのコップを持ってきて
水道の水をいっぱいに入れて
ガラスのビー玉をひとつ入れると
なんだかとても綺麗に見えた。
窓のそばに持ってって
夏の光にかざしたら
部屋の床にも光が映る。
夏は暑くて苦手だけれど
透明なガラス越しの光はとても綺麗だ。
『理想のあなた』
トランペットが上手な先輩。
初めて先輩の音を聴いた時の衝撃は、忘れられない。
不思議と人を惹きつける、存在感のある音。
私の信仰とも呼べるその音を、
いつからか、追いかけるようになった。
『突然の別れ』
高校一年の夏、親戚が亡くなった。
おばあちゃんの妹で、ひいおばあちゃんの家によくいる人。
目の前に横たわるその人を見て、隣に立つお母さんが言った。
「眠ってるみたいだね。」
私には、眠ってるみたいだなんて思えなかった。
でも、なんだか言ってはいけないような気がして、「そうだね。」と頷いておいた。