🐥ぴよ丸🐥は、言葉でモザイク遊びをするのが好き。

Open App
8/8/2022, 5:57:14 PM

004【蝶よ花よ】2022.08.09

女学校の同窓で、忘れられぬ者がいる。
喜和子だ。
「蝶よ花よだなんてことば、この世から無くしてやるんだから!」
卒業までに数ヶ月残して学校を去らねばならなかったあの日、彼女は山猫のようにぎゃんぎゃん泣きわめいた。

喜和子の望みは、通訳になることであった。学びのために、学校は最後まできちんと出席したかったのである。そして、当節流行りのモガのように、髪を短く刈り揃え、外国と我が国の紳士同士のやりとりを颯爽と仲介する、そんな姿を目指していたのである。
しかしながら、両親がそれによい顔をするはずもなく、「蝶よ花よと育てた娘を、異国人の只中に放り込むなんて、恐ろしい」とか「蝶よ花よと育てた娘に、みずぼらしい髪型なんてさせられるものか」とかと、事ある毎に渋面をみせ、挙げ句、さっさと縁談をまとめて女学校を辞めさせる、という強硬手段に出たのである。
蝶よ花よと傅育されることは、貧しい育ちの少女にとっては、夢のまた夢、憧れですらあることだろう。だが、時代の風に感化され、独立心旺盛な女性に育った喜和子にとっては、蝶よ花よと手厚くかしずかれる一方で、雨にも風にも当てぬよう囲い込まれるような出自は、呪い以外の何物でもなかったのだ。

ユキちゃんなら笑わないわよね、と喜和子が打ち明けてくれたことがある。
彼女が好きなのは蝶ではなく、庭のダンゴムシ。危険なときにはコロリとまるまって身を守り、危険が去ればまたモゾモゾと這い、我が道を行くところが、見た目に似合わず賢明じゃなくって?、と。

8/7/2022, 1:44:52 PM

003【最初から決まってた】2022.08.07

気がついたときにはすでに、最初から決まってたことは、私が人間であった、ということ。これこそが、誰もが等しく享けている運命じゃないかしら。
遺伝子レベルとか、最近はやりの脳の特性とか、さらにこまごました《最初から決まってた》もあるんだけど……あ、妻とか母親とか病人とかいう立場はあとづけの属性だけど、

私は人間である

これ以上に力強い運命ってあるのかしら?
生まれた時代、生まれた土地、生まれた家族、生まれた身体、自分からは選べないものにもみくちゃにされながら、本能の命ずるままにただただ反応しながら生きて死んでいく、だけに終わらぬ生き方を、つまり、《最初から決まってた》ことを乗り越えていく生き方を選べるのは、あらゆる生物のなかでも、人間だけの特権じゃないかしら。

うまく世間を渡っていくには絶望的に手持ちのカードが不足している、ってのは、絶対あるよね。
だけど、

貴方も私も人間である

絶望の果に唯一残るこの属性が、これがすべての原動力、この世の最強のカードなのだ、と覚ることができた人は、希望を失わずにすむのだと思う。
まだこの世には存在してない選択肢を切り拓いていく能力がある、これこそが人間に生まれた私たちに《最初から決まってた》ことだから。

8/6/2022, 7:30:22 PM

002【太陽】2022.08.07

8月。あえて太陽の照りつけるおもてにでて、わざわざどっさり汗をかいて、そのほうが健康的、だなんてうそぶく季節。ちょっと日陰に入って、竹藪からの微風に身をゆだねて涼を得るのは極上の気分。
だけど今年の日射はヒドすぎて、とてもではないけど、クーラーの効いた部屋から出る気もおきず。カーテンもばっちり引いて、完全遮光断熱仕様で暮らす毎日。

昨日は午後から土砂降りでした。おかげでそとは天然のクーラー。
お天道様がさえぎられるひとときをこそ願わしく思うなんて。地球を温暖化させるのは、あまりにも罪作りです。

8/5/2022, 12:36:12 PM

001【鐘の音】2022.08.05

たった一回撞いただけ、だけど、いつまでもいつまでもずっと余韻が続くのが好き。
限りなく細く、微かにひきのばされながらも、ずっと消えない、音。

まるで、円周率がどこまで微小な桁になっても、いつまでもいつまでも割り切れなくて、果てしなく続いていくような。