私は右利き、君は左利き。
手を繋ぐと、2人とも利き手が塞がらなくて便利だね。
君は右利き、俺は左利き。
腕相撲する時、2人とも利き手だから平等だね。
私は右利き、俺は左利き。
いつも自分の左/右にいてほしい。
「ありがとう、ごめんね。」
一世一代の大舞台。顔を真っ赤に染めて、だっさ。
思わず目を瞑って返事を待つ。すると返ってきたのはこの言葉。
建前だけの「ありがとう」だなんて…
「やっぱりセンセ、教師と生徒の壁って超えられないの?それとも僕が魅力ないだけなの?」
縋り付くように、声を震わせて救いを求めるように問いかける。
黒をメインとした僕たちの制服とは対照的に白衣を着ている女の人。
この人は僕たちの物理担当…そして、担任の先生。
高校生になって、3年間ずっと担任で。
最初は女の先生ということで少し緊張していたけど、フレンドリーで話しやすかったし…何より、僕が1番苦手で嫌いだった物理を好きにさせてくれた。
物理を好きになると同時に、センセのことも好きになっていたんだろうな。
「ううん、君が魅力ないんじゃなくてさ。やっぱり私は教師として来てるから、そういう感情を抱くことは許されないんだ。」
迷惑客に対応するような、完璧なマニュアルを読むような態度。
テンプレみたいな対応に、何故かとても悔しくなった。
「じゃあもし、センセが僕のこと好きになって良かったなら、僕のこと好きになってくれてたの?」
ああいえばこういう。迷惑客というのもあながち間違いではない。僕はセンセのこと困らせてる。わかってるのに、悔しいんだ。
僕の恋心が馬鹿みたいでさ…結局は僕のエゴなんだ。
「さあ、どうだろ。考えたこともなかったかな。」
言葉は素っ気ないくせに僕から目は逸らさない。
あーあ。そういうところが諦めさせてくれないんだ。
付き合うことなんて、できないかもしれない。
高望みなんて、してない。
ただ、ただ…
「じゃあ、好きでいることを許してくれますか?」
センセは笑った。
「好きに生きていいよ。もし、先生のこと諦めきれなかったら卒業してからおいで。」
これが、8年前の話。
今は、
「ありがとう、ごめんね。」
そうやってセンセは笑う。
「私、もう付き合ってる人いるんだ。」
そして、センセは僕の肩を抱いて微笑んだ。
「センセ、大胆だね。」
「あは、センセだなんて…
今は君も先生なくせに。」