花畑
私はずっとそこで花を育てている
血のように赤いレッダブリル
初夏の空のようなビルノット
君の髪のような金色のアゴルテルカ
君の瞳のセグリンタノ
、、、
百を超えるであろう花の名が私の舌の上で羅列する
もう28年
ずっと花を植え 水をやり 育てている
春夏秋冬いつでもどれかひとつは咲いている
それは私にとっての楽園であり希望だった
私はずっとそこで花を育てている
みな、笑った
私を見て
私が狂ったように必死に花を育てる様を見て
笑った
それでも良かった
君よ、帰ってきてくれ
私は旅に出た
33年前 君と共に
私は君と共にならなんだってやれた
敵兵を殺すことも
敵を殲滅させることも 命をかけることが出来た
君も同じことを言った
そして笑いあった
29年前 君は死んだ
殺された
敵兵に殺された
新兵器の爆撃はあまりにも大きかった
君の肉も骨も拾うことはできなかった
私はあまりにも容易に君の死を受け入れてしまえた
それから
私はずっとそこで花を育てている
この花を
この花たちを君の肉だと
君の骨だと 髪だと 瞳だと 足だと 手だと 口だと 鼻だと
そう思って
そう思わなきゃ生きてはゆけないひとたちが
私の他にもたくさんいるだろうから
私はずっとここで花を育てている
今までも今もこれからも
戦いはこの世界のどこかでかならず行われているだろうから
私はここで戦うのだ
この花を必要とする人々のために
私はずっとここで花を育てている。
花畑
沈む夕日
それは地平線の向こうへと消えてゆく
冬が終わり、春と夏の生暖かさを乗せた風が吹く日だった
僕は死に損なったんだ
冬に死のうと思っていた
冬が1番好きだから
冬までは生きようと思っていた
でもいつの間にか冬は来て
気づいたら冬は終わっていた
生暖かい風が僕を包む
死に損なった
また僕は思う
冬まで生きよう
冬までは生き抜いて見せよう
そしてまた春を迎えることを祈ろう
そうやって僕はこの先何十年と生きていくのかもしれない
毎日沈んでのぼるあの太陽のように
ぐるぐるまわって まわって
冬までは生きよう
寂しい春も 溶けそうな夏も 消えゆく秋も
そう思えば乗り越えられるはず
沈む夕日
星空の下で
僕は考える
もしこの星全てが落ちてきたらどうなるのか
その瞬間は美しいのだろうか
こんなにも輝いている星が
全て僕らめがけて落ちてくるのだ
綺麗じゃないはずがない
美しくないはずがない
でもその煌めきは僕らを殺す
一瞬で焼き尽くす
僕は己の命を捨ててでも
この星々を美しいと言えるのだろうか
僕は考える
星空の下で。
それでいい
きっとそうだ
それでいいはずだ
流れる川に
自ら身を投げた
流れに逆らうことは許されない
ただ流されて
進んでいるはず
逃げ出した
だが怪物との距離は一向に離れない
むしろ縮まっている気さえする
流されているはずなのに
永遠に回っていた
きっとそうだ
それでいい。
1つだけ
お願いがあるんだ
︎︎“明日”を止めてくれ
ある少年は言った
出口のない迷宮を彷徨うより
終点のある線路を歩きたい
“明日”がなければそれも可能になる
僕は“明日”が怖いんだ
それなのに僕は
夢を見ようとするたび
“明日”を失う恐怖に魘される
人生とは後悔であると思っていた
だが、“明日”という存在の連続が人生であるとも思った
後悔=人生=“明日”
という方程式は成り立つのだろうか
成り立つのだとしたら
後悔=“明日”
が成り立つということである
後悔と“明日”は=で繋がるのか
答えは1つだけではないようだ。