7/23/2023, 1:11:24 PM
「ねぇ、蓮見て!」
先程まで僕と並んで歩いていた幼なじみの岩崎透が突然しゃがみこむ。このような突飛な行動は透にしてはよくあることで、僕──七雲蓮──は眉一つも動かさなかった。透はふわふわした奴で、昔からあっちに行っては怪我をしてこっちに来ては怪我を怪我を増やしてと危なっかしい。僕は降っている雨も気にせずに足元の何かに夢中な透にさしている傘を傾けた。
「何、透。どうしたの。」
「みて、ここ!ちっちゃいけど綺麗な花が咲いてる!」
「ふふ、ほんとだね。青い花びらが雨に映えてる。」
透の視線が釘付けにされているのは青色の小さな花だった。特に野草に明るくない僕には名前は分からなかったが、その花を見てキラキラと目を輝かせている透がとても可愛らしくていつまでも見つめていられた。
「ねぇ、蓮は何色の花が好きー?」
「んー、あまり拘りはないけど、この青い花は今まで見てきた中でもすごく綺麗だって思うよ。」
「わかる!俺もこの花すげー好き。」
そう言ってふわりと笑う透。ついその可憐さに心を揺さぶられて抱きしめてしまいそうになる。でも僕は透とのこの距離を保つために絶対にそれを理性で押さえつける。青色の花は本当に美しくて、花の名前が分からないのが悲しくなるほどだった。それでも僕の目には透の花が咲いたような笑顔の方が、道端に咲いていた青の花よりもずっと美しくうつって見えたから。