1/20/2022, 7:40:41 PM
【海の底】
海はどうして冷たいのか。
夏になると人に体温を分けてもらえる。
冬になると、誰も入りたがらない。人々に冷たくされるので、寂しがり屋はいじける。冬は空気が澄み、危険な場所でさえ魅力が宿る。そんな危険な魅力に惹かれたのか、もっと彼女のことを知りたいと思ったのか。いつのまにか僕は彼女の体温に身を寄せていた。足のつかない彼女の深く、冷たい懐に。
1/19/2022, 3:47:08 PM
【君と共に】
東京で珍しく雪が積もった。雪を前に子供のようにはしゃいでいた彼女が戻ってきて腕を貸すことになった。「暖かいね」「そうでもないよ。僕は冷え性だから」「もう、そう言う意味じゃない」少し不貞腐れたような彼女は僕の冷たいはずの手を握り、もう一度言った。「暖かいね」。僕は2度も同じ言葉を繰り返す彼女をやはり理解しかねたが、暖かい彼女の手の薬指だけは、冷たいままだった。
1/18/2022, 8:58:37 PM
【閉ざされた日記】
心中をしよう。つまり、私と私以外の誰かとだ。自死は、咎められるものではない。同情もいらない。ただ、私の人生に他者からの勝手な妄想を捗らせないために遺書を書く。私以外の誰でもいい。エピローグを、終わるべくして終わったということを私の内から吐き出してから死にたいのだ。ただ、それも必要がなくなった。私はこれから他人と死ねる。互いのエピローグを語りながら、ゆっくりと川に体温を分け与えるつもりだ。だからここには書き残さない。もしこの閉ざされた日記を読んで、私の人生の終わりに興味を示したのなら、君もここに来てみるといい。私も君の最後を聞かせて欲しい。私達だけでは、川は温まらないだろうから。