『明日世界が終わるなら』
明日世界が終わるなら、世界最後の日の海を見に行こう。
交通系ICカードに入れられるだけお金を入れて、電車に乗ってあの青い、大きな海を目指そう。
海に生まれ海に還る。
自然の摂理ともいえるそれに従うように、私は還るだろう。全ての生命の源であり、母とも呼べる、あの海に。
『カラフル』
グミ、チョコ、キャンディ…。
眼前には色とりどりのお菓子が所狭しと並べられており、そのどれもがキラキラと輝いて見える。
どれにしようか、何を買おうか。
右手の百円玉を弄びながら考える。
さくらんぼ餅は美味しいが値段が30円である。
100円でやりくりせねばならない現状、30円は痛手である。だがしかし美味い。
プリンチョコは10円とお手頃価格な上に当たりが出ればもう1個貰えるという特典付き。サイズが小さいため、あまり満足感を得られないという点を除けば、ほぼ満点である。
こんぺいとうも捨てがたい。
7~8個入りと大容量で25円という破格。
舐めて食べるべきか噛み砕いて食べるべきかがいささか疑問ではあるが、こんぺいとうは見た目が可愛いので良しとする。
赤、黄色、オレンジ…。
蛍光灯の光を受けて、眩いばかりの光を放つカラフルなお菓子たちが私を誘惑する。
何を選んで、何を切り捨てるか。
あまたある選択肢の中から本当に必要なものを冷静に分析して取捨選択していく必要がある。
今、自分は何を望み、何を買うべきなのか。
どれを選んで、何を買うかは自由である。
故に全行動の、全責任は自分にある。
駄菓子屋は夢のようでいて、ひどく残酷な世界である。
『風に乗って』
夕方の住宅街は匂いに溢れている。
カレー、焼き魚…。
風に乗って、家々から漂ってくる匂いは何かを考える。
この匂いはやきそばだろうか。
ソースの焼ける良い香りがする。
やきそばの匂いは夏祭りを連想させる。
今年はあの人と一緒に行けるだろうか。
それぞれの家から、それぞれの夕飯の匂いがする。
それぞれの家に、それぞれの家庭がある。
今日もそれぞれの食卓には、それぞれの夕食が並ぶ。
カレー、焼き魚、やきそば…。
風に乗って、それらの匂いは運ばれる。
今日の夕飯はなんだろうか。
心の中で呟いたその問いに呼応するかのように、腹が鳴いた。