良いお年を迎えたいヤツはいねえがぁー!!!!
今年も精一杯のテンションで鬼の仮面を被って包丁を持ち、あまり付き合いのない近所のお宅にドシドシと入っていく
今回のこれで三年目になった
町おこし
過疎化が進む我が町は危機的な状況にあった
定例会、少数の若手が集まり知恵を絞る
毎回、パッとした意見は出ない
キリキリとした空気はいつか淀み、耐えがたいプレッシャーを皆が感じていた
そんな重い空気の中
なまはげをパクろう、と言い出したのは私であった
単なる思いつきで発したのだが、若い衆は食いついた
予算的な都合、お面と小道具でいけるコストパフォーマンスの面
なまはげの全国的な認知度を借りたらSNSでイケるんじゃないか、という現代的な期待を込めて
この三年前に伝統もクソもない、我が町でなまはげの風習がはじまったのである
若い衆がみんな集まれるのは年末ぐらいで
目立ちそうだから、という理由でとりあえず大晦日にやることにした
準備を重ねていよいよ本番
ところが台詞が思い浮かばないのである
ルーツがないという痛手
悪い子はいねえがぁ!!的な名台詞が見当たらない
しかし、もうやるしかない
私は意を決して知らないお宅にドカドカ乗り込み
そして
良いお年をお迎えたいヤツはいねえがぁーー!!!
気づけばよくわからない事を叫んでいた
大体の人は良いお年をお迎えたいものである
早いもので今年で三年目
また今年も大晦日が来た
今さら台詞を変えられないし
意味はわからないけど
良いお年を迎えたいヤツはいねえがぁー!!!!
と全力で叫ぶ
我が町の新しい伝統となりつつある
良いお年を
歳を重ねるとなんとなく世の中というものが見えてくるもんで
ああ、あれはこういうことだったんだね、とか気づくところが増えてくるお年頃
世の中というのはこういう構成でこういう考え方の人の割合がこれくらいいるから、結果こういう発信をしているのか、とか
そんなレベルで、なんとなく見えてくる
不倫がどうだとか、政治がどうだとか
でもそれは別に私の生活に何か直接的な影響があるわけでもなくて
だからそれがどうした、と言う私もいたりして
来年は楽器が上手くなりたい
来年は英語を話せるようになりたい
生きる、ということはつまり
自分がやりたいことを純粋にやるだけなんだと、
思ったりする私がいたりなんかして
1年を振り返る
この趣味を他人に話すと
変わってるね、とよく言われる
でも、
でもさ
なんなら昆虫採集の方がヤバくないか、と言い返したくなったこともあったけど
やめといた
私は道に落ちている、てぶくろの収集家
空き地とか道端に落ちているてぶくろを集めて額に飾る
それが私のアイデンティティ
てぶくろ
絶対におかしい、と言い切れるほどの時間が経過した
月明かりとヘッドライトの先に横断する車はなく
ひたすらウィンカーの音だけが車内に響く
いつまで待っても変わらない信号だけが私の左折を拒んでいる
変わらないものはない
毎年、杞憂であった
ケーキだのチキンだのレストランだの
プレゼントだの結ばれただの
サンタクロースは我が家のドアをスルーして
恋人同士に寄り添うのだから
私は暗黒を纏いし
黄金騎士である
今宵、また降りかかる孤独を蹴散らす為に
馬に跨がり荒野を駆け巡るのである
クリスマスの過ごし方