会うつもりはなかったけど、会いに行くと言われたので、涙を拭って、泣いてなんかいなかった振りをした。
何も言われなかったから、気付かれていないと思っていた。
ずっと後に、「あの時泣いてたのって、会えるのが嬉しかったから?」と訊かれて、直前まで泣いてたのを気付かれていたのだと知った。
涙を流していたのは、嬉しかったからではない。
的外れ、でも本当のことを言うつもりはなかったので、曖昧に頷くだけにした。
半袖のTシャツに描かれた動物が可愛いと思って買って、5年以上経ってもそのTシャツを気に入っていた。
気に入っていたけど、描かれたその動物の名前はまだ知らなかった。
雑誌でたまたま見かけてようやくその動物の名前を知った。
ハリネズミ。
今でも好きで、ハリネズミの描かれた小物とか見ると、つい買ってしまっている。
もしも過去へと行けるなら、親戚のおばさんが生きていた頃に行きたいと思う。
小さい頃にたくさん可愛がってもらったのに、何も恩返しができなかったことを今でも後悔している。
今の私が会ったとしても何もできないかもしれないけど、その頃の私よりは気持ちを伝えられると思うから。
真実の愛は死後の世界があったとしても、その人と一緒にいたいと思えることだと、ある本を読んでから、ずっと考えている。
血の繋がった家族以外でそんな人を見つけられたら、とても素晴らしいことだなと思う。
バスに乗って、ぼーっと外を眺めていて、ふと車内に目を向けると、三席前に座っていた女の子の髪型が、おしゃれで可愛いことに気付た。
一人でやったのか、家族にやってもらったのか、気になる髪型をしていて、私が社交的な性格をしていたら、「その髪型、一人でやったの?」と声をかけていたかもしれない。
社交的ではないので、私はそのままバスを降りた。
その時間のバスにはもう乗ることはないけれど、乗り続けていたら、その子にまたいつか会えていたかもしれないと思う。