久しぶりに海に行った。
砂浜を歩いたり、海水に触れるくらいまで近くに行くのは何年振りだろう。
車の窓から、電車の窓から、遠くからはたまに眺めることがあった。
私の覚えている海は、波が激しく打ち寄せて引いていき、波音も大きかった。
でも、目の前の海は風に吹かれて揺れる湖のように緩やかに波が打ち寄せて引いていて、波音も穏やかでずっと聞いていたくなった。

お店に買い物に行こうと歩いていると、前方から自転車に乗っている人が来て、歩きながら、その人をじっと見てしまった。
競輪選手みたいな服を着て自転車に乗っている人を今まで見たことがなくて、初めて見たからだ。
夏休みで大学の部活の練習とかなのかなと思いながら、通り過ぎようとした時、「こんにちは」と爽やかに言われて、びっくりしてしまって、声が咄嗟に出なくて、頭を下げることしか出来なかった。
実物の爽やかな好青年というものを初めて見たとドキドキした。

遠くへ行きたいといつも思っている。
遠くに行って、移り住んだら、そこはもう遠くではなくて、近くになってしまう。
知り合いなんていない遠くへ行きたいと寂しがりやのくせに、いつも思っている。

この間まで寒かったのに、夏の気配を感じないまま、急に夏になった気がする。
父がキュウリが好きなのか一年中買ってくるが、最近、地元産のキュウリが出てきたので、食べてみたら美味しくて、夏がきたんだなぁと改めて思った。

あなたの声は今も思い出せるのに、あなたが最後に言ってくれた言葉をはっきりと思い出せない。
いくつか、こんな言葉だっただろうかと思い浮かべたけど、どれも違う気がした。
最後だと知っていたら、その言葉を記憶するように聞いていたのに、最後だなんて思わなかったから、聞き流して聞いてしまっていたのかもしれない。