「こっちに恋」
母は少し天然なところがある。
カップルを見かけると必ず、「カップルがいる!」と、はしゃいで言ってくる。
私は見ても、カップルがいるなぁと思うだけだが、「こっちにもカップルがいる!」と母は言って、またはしゃいでいた。
「愛にきて」
送られてきた文章を見て、見間違いかなと思って、目線を一度外してから、もう一度よく見てみる。
やっぱり『愛にきて』と書いてある。
この文章を送ってきた相手は、私のことを友達としか思っていないはずで、打ち間違えたのを気付かず、急いでいてそのまま送ってしまったのだろう。
そうだと分かっていても、見た時、ドキッとしてしまった。
返事は普通に返すべきか、相手にもドキッとさせるようなロマンチックなことを書くべきか、しばらく悩んだ。
私は両親がお見合い結婚だって友達に言うのが恥ずかしいと思っていた。
周りの友達の両親は皆、恋愛結婚だと言っていたからだ。
両親はお見合い結婚だけど、父が母にどうしてもと言って結婚したらしいという話を聞くと、少しだけ恋愛結婚に近いのかもしれない。
父と母はよく喧嘩をするけど、出掛けた時に二人が並んで食事をする後ろ姿を見たら、とても仲が良さそうで、お見合い結婚という巡り逢いもそう悪くはないのかなと今は思っている。
「どこへ行こう?」とツアー旅行のパンフレットを見ながら、母が呟いた。
母は旅行するのが好きで、よく旅行のパンフレットを貰ってきて、頻繁に眺めていた。
今年はどこに行くかもう決まったらしく、母は行くのが楽しみという顔をしている。
姉から電話があって、しばらく話していたら、突然、「ヒュォォ」と雪女のささやき声みたいな音がして、何も聞こえなくなって、ブツリと電話が切れた。
姉に何かあったのではと思って電話をかけようとしたら、姉から着信があって、慌てて出る。
「大丈夫?」と姉と声が重なった。
姉に話を聞いたら、姉も同じ音を聞いて、何も聞こえなくなって、電話が切れたらしい。
電話をしていた時、私は家にいて、電波が悪くなかったし、姉は外で遊歩道をウォーキングしていたけど、電波が悪い場所ではなかったと言っていた。
その現象は一回だけで、その後は一度もなっていない。
二人だけでこんな時間まで遊ぶのは初めてだったかもしれない。
星明かりを眺めながら、彼女と帰り道を歩く。
一緒にいた時間が長かったからか、少しさみしくなって、「家に少し寄っていく?」といつもは言わないことを言ってしまった。
「ううん、家に帰ってやることがあるから」と彼女に断られたが、彼女の様子はいつもと変わらなくて、嫌だとか変に思われたわけではないと分かって、ほっとした。