小学生の頃の話で、掃除をしていて、同級生の男の子が雑巾で窓を拭いていて、あれ?と思って近付いた。
手を窓に伸ばす。
ガラスに触れようとした手が空振る。
「あはは、騙されたでしょ」と男の子が得意気に笑っていた。
この窓は飾りだって知ってたのに、あたかも窓ガラスがありますって感じに拭いていたから、確かめてしまったじゃないか。
「全然ついてなくて、悪いことばかりだったけど、あなたに出会えたことが今まで生きてきた中で一番の幸運です」
ふにゃっとした笑顔でそんなことを言ってくれる彼が愛おしくて、言葉を口にしようとした瞬間、目の前が真っ暗になった。
瞬きをすると、おどおどした様子の彼が立っていて、口を開く。
「あの、初めまして」
何十回も繰り返してきたのに、この言葉を聞く度に傷つく。
気が弱いのに庇ってくれたことも、好きなものの話になると話が止まらなくなることも全部覚えている。
繰り返していることを喋ってはいけない、だから。
「初めまして、よろしくね」
笑顔を作って、初めてを装い続ける。
数年前、好きな小説家さんの展覧会に初めて行った。
本を数冊読んで、過去に何回か展覧会を開催していたと分かって、一度は見てみたいと思っていたら、またやると本に紹介されていたのを見つけて行ってみた。
展覧会のタイトルに星が付いていたので、チケットを買って、入場する時にチケットの真ん中が星型にくりぬかれて、人が入る度に星がどんどん増えていく。
チケットやパンフレットにも夢があって、とても素敵な展覧会だった。
本当に願いが叶うとしたら、1つだけを選ぶのは意外と難しい。
考えていると、今の性格を変えたいとか、大きい本棚が欲しいとか、次々と出てくる。
母と姉が病気になりがちで心配なので、最終的には家族が無事に過ごせますようにと願っているかもしれない。
ドラマを見ていて母が父に「ねぇ、これどういうこと?」と訊いていたのに、父が全然答えようとしていなかったので、「あぁ、それはこういうことなんだと思うよ」と代わりに説明をする。
母は途中から見て意味が理解できなかったのだと思う。
父は最初から見ていて意味が理解できていたはずだなのに、見始めて5分くらいの私が何で代わりに説明しているんだと思った。