椿灯夏

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2/12/2025, 9:09:55 AM

お題《ココロ》

カラフルなフルーツドロップの缶

お守りがわりにポケットへ突っ込んで

足早に向かう

春を迎えに

桜並木の道にあるポストで君を初めて見た

丁寧な仕草で手紙を出す姿に心引かれ

その瞬間

ココロに映画が流れた

桜吹雪が舞って

君が僕に気がついて

チューリップのように頬が色づいて

手を振って笑いかける

その瞬間、春が始まったんだ

2/10/2025, 1:36:06 PM

お題《星に願って》


星花が夜空から流れてくる

流星の流れる季節を《流花》と呼び

元星の民であった地上の民は落花と歌われる

星にはなれない星

それでも夜の帳が下りれば祈歌を空へ捧ぐ

いつか故郷に還るのを待ちわびながら

季節は巡り

花は咲き

やがて花は枯れる

それは流花も同様

星の民ではいられなかった彼らが

不変でいられるはずもない


《途中書き》

2/9/2025, 8:51:24 AM

お題《遠く……》


天も地も蒼白に埋もれていく

街も花も色を失って

静寂は聖域のように

(……)

記憶の中でも

僕は動かない

虚ろな瞳で天から降る花を仰いでいる

天にはきらびやかなお城があって

そこには見たこともない美しいお姫様や

魔法使い、吟遊詩人、エデンの騎士

物語に登場する英雄たちが存在している場所があるのだという


病弱な母が聞かせてくれた絵本には夢があふれていた

お金がなくとも

僕は……母とこの絵本があればいい

それだけで生きてゆけるから



それだけで……………………




音がしない



僕の世界から花が消えた


2/7/2025, 1:58:34 PM

お題《誰も知らない秘密》


風花は誘う

彼の者しか聞き取れない囁きで

神隠しの国へ招く詩を


現し世の目では視ることのできない

真実は鳥居の奥のその向こう側

香りは儚く淡い花香

夢から覚めたら忘れてしまうような


遠い懐かしい

何処かへ置き忘れてしまったような

旅人が語ってくれた冒険譚のような



いつ境界線を越えてしまうのか

いつ惹かれ引かれていってしまうのか



わたしですらもう――憶えてない



すぐに忘れてしまう



あの花も


あの詩も



それは幻霧に霞んでゆく

2/6/2025, 1:47:46 PM

お題《静かな夜明け》


室内を満たすのは鬱蒼とした空白の感情

恋人と些細なことで言い争って

手つかずの料理

恋人が好きだと作ってくれたスープも

今は沈黙の海でしかない


もっと話したかった

もっとあなたの日常の色を知りたかった


でもあなたにはここではない楽園があった


わたしじゃなかった


わたしだけが夢見て


散った

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