#ひらり
ひらりひらりと
桜が舞い散るこの季節
待ち合わせなんかしていないのに
名前も知らないあの人と
今年も二人だけのお花見だ
夜は誰もいない小さな公園
桜の木の下に置かれたベンチ
コンビニで買った缶ビールと
去年、あの人が好きだと言っていたおつまみ
覚えていてくれたのかって
喜ぶ笑顔が目に浮かぶ
この関係に名前はなかった
でも今年こそは……
#誰かしら?
「い、一体、どこの誰かしら?」
文化祭での女装喫茶
こんな格好……
絶対アイツにだけは見せられまいと
逃げていたはずなのに!
なんで、しらばくれたはずなのに
俺はコイツに腕を掴まれているんだ?
待て待て!そっちは……!!
#芽吹のとき
昨日までコートが必要だったのが嘘のように
暖かい日差しが窓辺に差し込む
日差しに誘われてベランダに出てみると
枝だけの姿に見慣れてしまった街路樹に
微かな芽吹を見つけた
(俺も……)
なんだか新しいことがしたくなり
まだ眠り続けているアイツを叩き起こしに
俺は口元に笑顔を浮かべながら
寝室に向かった
#あの日の温もり
忘れもしない
初めて会ったときに感じた
絶対的な服従感
頭の中では逃げなければと思いながらも
伸ばされた手に抗うことは
僕にはできなかった
これは……運命なんだと
雨に濡れて冷えていた身体は
温もりなんて優しい言葉じゃ
足りないほど
重ねられた熱を痛いほど感じた
#カラフル
ある日君は、僕が見たことのないものを嬉しそうに持ってきた。
それはカラフルで、固いリボンのようなものだった。
銀テープと呼ばれるものらしく、何やら日付やらメッセージが書かれていた。
ファンの子たちは取り合いになるほど欲しいものらしい。
いつか自分の名前が入ったものをくれてやると言って、握りしめたまま眠りについてしまった君。
こんなものになんの価値があるのかわからなかったが、僕も君の名前が入ったものだったら欲しいと思ってしまった。
君の名前がキラキラしていたら、きっと飽きずに見つめてしまうだろう。