2/3/2026, 2:54:17 AM
同じ時を歩み続けることは出来ないと分かってから、悔いが残らないようにやりたいことも、やってあげたいことも沢山した。
だが、いざ別れになった時には、受け入れることなどできなかった。
彼は泣きながら逝かないでほしいと縋る私の頭を、力のほとんど入らなくなった手でやさしく撫でなでる。
「君とこれまでたくさんの思い出を残すことができた。
とても幸せだったよ、ありがとう」
そういった彼の顔は酷く穏やかで、もう居なくなってしまう事をよりいっそう感じさせる。
悲しくて、どうしたらいいのかも分からず涙で濡れた顔をさらに歪ませてしまう。
「そんなに泣かないでくれ。君にはまだたくさんの時間がある。
一緒に歩めないのは残念だが、君をずっと見守っているよ」
少しずつ撫でる力が弱くなっていく彼の手をそっと手に取り、願うように握りしめる。
涙で歪んでしまう視界にどうにか彼を写す。
昔から優しい顔で笑う人だったが、今が一番柔らかく優しいように見えた。
「あなたがくれた沢山の思い出を、優しさを絶対に忘れない。
だから……」
大丈夫、心配しないで、そう言いたかった。
喉が詰まってしまってその先を言えない私に彼は
「……うん、君なら大丈夫だ」
そう言って目を閉じた。
彼の葬儀はささやかなものにした。
彼はあまり仰々しいものを好まなかったから。
墓は生前彼が気に入っていた見晴らしのいい場所に。
彼が穏やかにいられるよう、彼の好きだった花を植えた。
彼が残してくれた優しい思い出を忘れないように、そう祈りを込めて。
暖かな日差しの中、青と白の可愛らしいい花がゆらゆらと風に揺られている。
辺りを埋め尽くすように咲いている様はまるで小さな湖のようだった。