4/11/2024, 2:42:22 PM
言葉にできない
見ているだけでイライラするのに、気がつくと目で追っている。麻生はそういうやつだ。
廊下の端に置いてあったバケツにつまづき、その拍子にぶち撒けたプリントを麻生は慌てた様子で拾いあつめている。なんて鈍臭いのだろう。
小中高と同じ学校に通い、高校に入ってからはクラスも一緒だ。麻生は抜けているところがあり、おっちょこちょいで、だけどつい手を焼いてしまいたくなる。
__しかたない、手伝ってやるか。
立ち上がった瞬間、視界の端から飛び込んでくる奴がいた。まっすぐ麻生のもとに駆け寄り、プリントを拾い集めている。
それは俺の役目なのに。立ち尽くしたまま、その様子を眺めていた。
集め終わったプリントを受け取ると麻生は「ありがとう」とそいつを見つめて言った。
頬を薄桃色に染め、視界にはそいつしか写していない麻生。不安と焦りが一気に膨らみ、胸の中がうずまいた。俺は恋人じゃない、だけどずっと一緒にいた。