NoName

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11/19/2022, 9:05:58 AM

先生から初めて怒られたのは小学校2年のとき。授業が終わってないのに勝手に紅白帽と雑巾をとっていって一人で誰も居ない静かな廊下をひたすらに磨いていた。その後に、おい、お前呼び出されてたよって友達から言われて教室に戻ると先生が真っ赤な顔をしていて。それでベランダに連れていかれて散々に説教を食らった。僕はもうしゃくりあげてしまってごめんなさいも言えないくらいにひくひくと鼻頭を動かしていた。先生が粗方のことを言い終わったふしで、その優しくも冷ややかな手で僕の頭をゆっくりなでおろしてくれた。その手が下へ下へと撫で下ろされていくのに同期して僕の中の罪悪がどんどん太っていって、しゃくりが時限爆弾みたいに早くなっていって、たまらなかった。その手を退けて先生は一人教室へと戻って行った。2分くらいたったあたりで先生は戻ってきて、口をお空けなさいと仰った。大人しく口をペリカンのように開けると先生は僕の口に小粒のレモン飴を放った。泣き止んだら教室に戻りなさい、あと飴のことは先生と君との秘密ね。そう言って先生は授業へと戻っていった。美しい想い出というのは時に美化されて蘇る失敗例だとかその時は苦しさに喘いでいた記憶についてのことが多い。ひとつひとつそれはかけがえのないものになっていくのだが記憶にはまるで鏡のくもりを拭うように美化されてその内容が頭の中でどんどん変貌していってしまう。そのレモン飴についての味。当時は酸っぱかったかもしれないし、異常に甘かったのかもしれない。でもその改竄されることのないその当時の記憶を辿り想像することこそ人間らしい想い出だと思う。