「終点〜、終点〜」
隣のおじいちゃんは、いつもそう言う。
車掌さんをやっていたことでもあるのかな。
「フンッ、セイッ、ハァッ」
掛け声のようなものも聞こえる。
多趣味だったのかも。
「隣のおじいちゃん、元気だね」
「スマブラの元チャンピオンよ」
蝶よ花よ。
愛でられて然るべきと微笑みを受ける者たちよ。
美しさ故に奪われ、飾られ、短い者たちよ。
奮い立て。
醜き芋虫、試練の蛹。
誰もが美しく羽化するわけではないのを奴らは知らない。
暗き土中、渇く熱気。
誰もが豊かに育つわけではないのを奴らは知らない。
奮い立て。
蝶らしからぬと言われども。
花らしからぬと言われども。
我々はただ、生きている。
芋虫のまま巨大になり、日陰に隠れようとも。
しなびて枯れ、つぼみすら付けられずにいようとも。
蝶よ花よ。
私が私を認めるの。
最初から決まってた。
そう嘆くのは簡単だ。
勇気と希望を持って進もう。
何も決まってないから。
「きれい事だ」
私の隣で誰かが呟いた。
彼は痩せた身体から有り余る不機嫌を滲ませた。
「何も決まってないわけがあるか」
「生まれて、生きることすら難しい子どもがいるのに。
ネグレクトについて知らないと見える」
補足するように呟いたのは、小さな人だった。
目深く被った帽子は表情を隠していた。
「ものの喩えじゃないかな」
恐る恐るの内面を隠すように胸を張って、私は言った。
彼らは私の方に顔を向けて、舌打ちをした気がした。
私が彼らを確認すると、彼らは立ち去っていた。
私は考える。
話が比喩かどうかより、彼らがなぜ不満げなのか。
なぜ彼らが呟いたのか聞けばよかった、と。
こうして彼らは消えていくんだろう。
なかったことにされるんだろう。
「最初から決まってた」
誰にも理解されない。
そんな想いを、抱え続けているのかもしれない。
悪いことをしたかもな。
私は悲しく、寂しくなった。
私が彼らなら、そう思うからだ