#91 悪夢
何かから逃げるように
私はただただ必死に走っていた__
突然、見慣れた自室の天井が目に入る
夢?
目が覚めたのだ
いつもの朝が広がっている
夢だったのに何故かほっと胸を撫で下ろす
逃げ切れてよかったと
…
足が痛い
昨日歩きすぎたからかな...
身体が重い
きっとおかしな夢を見たからだろう…
気持ちを切り替えるように
伸びをして起き上がると
ラジオをつけ天気予報に耳を傾けながら
私は洗面所に向かった。
彼がいなくなったリビングで
今日の天気を陽気に伝えていたラジオに
ザザッっと雑音が入ってプツンと音が途絶えたかと思うとまた音が鳴り始めた。
ゆらゆらと煙のような影法師が
ひょろりとした手を伸ばしラジオを消したりつけたり
遊んでいるようだ
そして、彼はまだ気づいていない
逃げられた腹いせに何者かがつけた印
足首についている手の痕のような痣に__
お題「ただ、必死に走る私。何かから逃げるように。」
#90 私は悪くない
「ごめんね」と言われても、
この傷が消えることはなく
もう元には戻らない
おまけに、
謝ってるのにに許せない自分が
ちっぽけに見えてしまって苦しくて
何だか悪者になった気分になる
だけど、私は悪くない
言い聞かせながら自分を抱きしめた。
お題「ごめんね」
#89 半袖
夏服の
袖からのぞく
二の腕を
恥じらいながら
夏を始める
お題「半袖」
#88 月に願いを
自分の力だけで
何でも叶えてきたけれど
今夜は特別
お月さま
どうかあの人を助けてください
冷たい月が涙に揺れる私を白く照らした
お題「月に願いを」
#87 溶け出す世界で。
いつまでも降り止まない、
雨に私たちは溶かされている
先週はついに隣街が溶けて消えた
降り止まない雨は世界中のヒトとヒトが作ったものだけを少しずつ溶かし続けている
初めは、この降り続ける雨に
このままでは世界が沈むかもしれない
という心配があったけれど
溶かされるなんて予想外の展開だ
何かの自然現象なのか
神様の気まぐれなのか
理由は未だ不明
そして、この現象に科学で立ち向かおうとする者
神様の教えを説いて受け入れようとする者
絶望のあまり自ら世界に見切りをつけようとするもの
さまざまな行動をとる人がいたけれど
降り止まない雨はそんな人たちから粛々と溶かしてしまったように見えた。
結局、今は
いつまでも降り止まない、
雨に溶かされながら
私たちは淡々と日常を送っている
溶かされる不安よりも
万一、溶け残って、この世界でひとりになってしまったらどうしよう..
と、そんな不安を抱えながら__
お題「いつまでも降り止まない、雨」