#58【星が溢れる夜に】
今夜も、
天の川から溢れた星々が地上に流れ落ちている。
この頃の戦いで今日もたくさんの命が亡くなっているのだろう。
死んだ人の一部は流れ星になり、
大切な人の元に帰るという
地上に強く思いを残している程、
天の川から溢れて流れ落ちるそうだ
今夜こそ
あの人の星は流れ落ちてくるだろうか?
私はずっと待っている
星が溢れる夜を
せめてこの手で
星になったあの人を
受け止めることが出来たらと__
お題 星が溢れる
#57 ずっと隣で
ずっと隣で
君と同じ景色を眺めていたい
ずっと隣で
この世界が化石になるまで
ずっと、ずっと__
お題 ずっと隣で
#56 100年の平穏のカラクリ
私は生まれてからずっと平穏な日常を過ごしている。
私自身も周囲の人々も
これまでの生活や人生に波風が立つことはなかったし
この街もこの国も、いや世界全体も
奪い合いや争い事はなく
目立った災害もなく平穏そのもの
「この平穏が始まってそろそろ100年になる」
どこかの歴史学者が言っていた。
ただ、声には出せないけれど
平穏すぎて私は退屈している。
ある晩、
大暴れしたい衝動を抑えきれずにいた私は、よからぬ想像を大きく膨らませていた
どこかのビルの上から大声で叫んで飛び降りてしまおうか
いやその前に銀行のシステムに侵入して強盗なんてどうだろう
ついでに、国家の防衛システムにも侵入してミサイルでも飛ばしたら世界戦争が始まっておもしろいかもしれないぞ!
と__
パチン!
大きな音がして
私の存在はこの世界から消えた。
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ふぅ~ やれやれ
危ないところじゃった....
ため息をつきながらある神さまが
『箱庭』からヒトの人形をひとつ
外に出していた。
本当にヒトという存在はなんてやっかいなんだ。
すぐによからぬことをしようとするから目が離せない.…
悩ましそうな神さま
神さまの世界では『箱庭作り大会 №1決定戦』の真っ最中。
今大会のお題は『100年間の平穏な日常』
決められたルールの中で
各自が持っている世界という箱庭に100年の平穏な日常を与え続けられるかが勝負どころ。
箱庭に配置する動植物・ヒトの数・目に見えない細菌やウイルスの数や種類、気候や地殻変動などの操作回数など細かいルールが決められているが、
その中でもとりわけ
理由付けなくヒトを箱庭(世界)からつまみ出す力技は
ジョーカー中のジョーカー
100年で3回しか使えない
そして、この神さま、丁度3回目のジョーカーを切ったところだ。
100年という時間は神さまにとって
さほど長い時間ではないけれどさすがに疲れているご様子
でも、大丈夫、もうすぐ100回目の春になる。
私の勝利は目前だ
ふぅ~っと息を吐いて整えた神さまは
また自分の箱庭を見守り始めた。
お題 平穏な日常
#55 【元・正義のミカタの日常】
愛と平和のために戦い続けた正義のミカタ
かつての時代の子供たちの憧れ
彼はヒーローだった。
正義のミカタを引退した後は彼の事を知らない過疎地に落ち着き、妻とともに畑の世話をしながら
近所のお年寄りの為にささやかなボランティアもこなしつつ、平和な日常を送っている。
若いころの彼とよく似た青年に成長した一人息子は
かつての父親にあごがれて都会でヒーローをしているらしいが、最近は正義のミカタもジェンダレスとなり
流行りはヒロインであったり
父親の現役時代のように、
皆が同じように求めていた愛と平和はすでに流行遅れで、
今は、
それぞれの正義があり
それぞれの愛と平和もあって
それぞれを尊重しつつ
でも自分の大切にするものを見失うことなく.......と、
とにかく、
かつての時代より社会は複雑で
ヒーロー業も何かと苦労の多い様子だ。
でも、彼は信じている。
息子ならいつかきっと
素晴らしいヒーローになるだろう_。
日が暮れて、畑仕事を終え
家に帰ると笑顔の妻が迎えてくれた。
彼は暖炉の前に腰かけひと休み
うとうととしているとシチューの優しい匂いが漂ってきた。
身体をはって宇宙怪獣と戦わなくても
今夜も我が家は愛と平和で満ちている。
元・正義のミカタの彼は目を閉じたまま
今日一日の満足を噛みしめ
日常の愛と平和に感謝を捧げた。
お題
愛と平和
#54 【おばあちゃんのファンタジー】
施設に暮らすおばあちゃんに会いに行った。
施設といってもとても豪華なホテルのような雰囲気の所で、一緒に暮らしているお年寄りたちもとてもおしゃれで品が良く、みんなそれぞれ趣味を楽しんで生活している。
おばあちゃんは、数年前までは自宅で暮らしていたけれど、だんだん日常のことを忘れてしまうようになり
ここでお世話になることになった。
———
施設に入ってからのおばあちゃんは若いころのことを
よく話してくれるようになったのだが
あまりにも突拍子もなくて、周囲の人たちは認知能力の衰えたおばあちゃんのファンタジーだと思っている。
そのおばあちゃんのファンタジーによると…
諜報機関の職員だったおばあちゃん
(簡単に言うと「スパイ」ということらしい)
そのころのミッションは
当時の隣国に紛れ込んで軍事計画を偵察することや
ミサイル発射を寸での所で止めて戦争が始まるのを防いだこと
国王の暗殺計画を国民に気づかれないよう阻止したりしたこともあったそうだ。
そして_
隣国の大使館員との秘密の許されない恋。
でも、ママが言っていた
「おばあちゃんはほんとはとってもスゴイ人だから
この施設に入れるのよ」
確かにパパやママの収入ではこんな豪華な所におばあちゃんを預ける事は難しいだろう…
そして、
おばあちゃんの瞳は真っ黒なのに
ママと私の瞳は少し青みかかったグレーで
戦争時代のかつての隣国の人達にどこか似ている_
———
今、おばあちゃんは陽だまりいっぱいのテラスで椅子に腰かけ、ふと思いだす「過ぎ去った日々」を私に語りながら平和な時間を過ごしている。
そして、
私はいつかおばあちゃんの恋を小説にしたいと思っている。
お題
過ぎ去った日々