正直

「ねぇ後輩くん、正直者は馬鹿を見るっていう言葉があるだろう？」
「アレ、少し間違っていると思っていてね、周りの人に嘘ばかりつく人からは人間が離れていくだろう、正直者の方が何倍も得だよ、後輩くんみたいなね。」
みんなから人気の先輩はこう言っていたけれど、オレはあんまり納得がいってない。

もしも先輩の言っていた話が本当なら、人間をバラして山奥に埋めるのが趣味なことを周りの人間に隠してる先輩は今頃みんなに相当嫌われていることだろう。
やっぱり先輩は嘘つきで、それを隠し通すのが上手だ。

梅雨

この時期よく咲いているあじさい。
あじさいの花の色は土の質によって変わると聞くけれど、あれは本当なんだなと最近身に染みて感じたの
ついさっきあじさいの下に埋めていた夫がバレてしまったから
見つけたのは小さい子どもで「ピンク色の花が綺麗で欲しかった」だそう。
綺麗だからって人の庭を漁らないの、と怒りたかったけど、世間的にはその子は英雄だろうね。
「それで、おばさんのつまらない身の上話は楽しかったかな、警察官さん？」

こんな人に配属初日に当たる俺は、不運な人間なんだろう。そう思ってしまった。

終わりなき旅

「終わりなき旅なんて存在しないの」
小さい頃、一緒に遊んでいた少女が幼げな声でそんなことを言っていたのをふと思い出した。
今思えばだいぶ達観している
「君の旅はすぐに終わってしまったね、天国でも元気にしてるならいいけど」
そう呟いて会社の屋上から足を離した。

「ごめんね」

階段から落ちて頭を打ったあなたが最後に言った言葉
こちらが謝られる筋合いなんて1つもなかったのにと目を伏せた
なんなら私が謝るべきだろう
階段から突き落としたのは私なのだから。

半袖

今のこの季節が嫌いだ
暑くなってきて教室のみんなが衣替えをしていく
手首まで覆っていた白い布はさっぱり無くなって、肘より上まで短くなる。
気を抜いているとそんな短い袖が赤く染まる幻覚を見るんだ
夏に風呂場で死んでたアイツ、肩まで湯船に浸かってて、袖が赤く染まってて、そんなのを思い出してしまう。
やっぱりこの季節は嫌いだ。