―勿忘草―
病室に入ると、君がにっこりと笑った。
「持ってきたよ」
僕は一冊のアルバムを手渡した。
「ありがとう……えっと、あ、あった。見て」
それは、真っ青な勿忘草が咲き誇る高原の写真。
僕と君が写真の中央で笑顔でピースをしている。
「覚えてる?」
「もちろん、僕がプロポーズした場所だもの」
「この子の名前“るり”はどう?」
そう言って君は産まれたばかりの我が子を見つめる。
「るり……?」
「貴方が教えてくれたのよ。この勿忘草の別名は“ルリソウ”って言うんだって」
「うん、良い名前だ。この子にぴったりだよ!」
僕はすやすやと眠る娘の側へ行き「るり」と呼んでみる。
るりは返事をするように小さな指を微かに動かした。
「るりが大きくなったら、今度は3人で行こう」
「うん、約束ね!」
―ブランコ―
ボクはブランコ
ボクの所へは色んな人たちが遊びに来る。
昼間、小さな女の子とお父さんがやって来た。
お父さんは女の子をボクに乗せ「ちゃんと掴まってるんだぞ」と言って、後ろから揺らした。
女の子は嬉しそうに笑っている。
それから、二人の男の子たちが来て「どっちが早いか競走だ!」ってボクをブンブン漕いだ。
夕方になって、制服を着た三人組女の子達が現れた。一人はボクに座って、あと二人は立った状態で談笑していた。どうやら恋愛話のようだ。
日が暮れて、辺りがシーンと静まり返る。
今日はもう誰も来ないと思っていたら、とぼとぼと誰かが近づいてきた。男の人だ。
その人はボクにそっと腰かけて、ため息をつく。
しばらくすると、女の人がやって来た。
「探したよ。さっきはごめんね」
「俺の方こそ言い過ぎた。ごめん」
「帰ろっか」
「うん……お腹空いたな」
「もう、ご飯出来てるから……」
二人は手を繋いで帰っていった。
―旅路の果てに―
僕はあの場所から逃げ出したかった。
誰も僕の事を知らない土地へ行きたかった。
君と出会えて、居場所を見つけられた気がした。
何もかも捨てて来たつもりだったけど、時の流れに身を任せていたら失いたくないモノが増えていた。
僕の旅は、もう終わるんだ。
僕は君とここで生きていきたい。
―I LOVE…―
私は俳優のTさんが好き。
Tさんのお芝居は目で追ってしまうほど魅力的。
雑誌やTVのインタビューでは、いつも話し方が丁寧で、優しい。
バラエティー番組に出演した時、お茶目な一面を垣間見て可愛いと思うこともある。
別の俳優さんが同じ事をしても何も思わないのに。
これが愛してるってことなんだと思う。
―街へ―
バスに乗っていた。
私は次のバス停のアナウンスがなる前にボタンを押した。降りるバス停が近づいて来てアナウンスが鳴った。
すると、こんな会話が聞こえてきた。
「次で降りるよ」
「僕ボタン押す……あれ?ママ押したでしょ!」
ごめんね……。