ただの空

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―勿忘草―

病室に入ると、君がにっこりと笑った。

「持ってきたよ」

僕は一冊のアルバムを手渡した。

「ありがとう……えっと、あ、あった。見て」

それは、真っ青な勿忘草が咲き誇る高原の写真。
僕と君が写真の中央で笑顔でピースをしている。

「覚えてる?」

「もちろん、僕がプロポーズした場所だもの」

「この子の名前“るり”はどう?」

そう言って君は産まれたばかりの我が子を見つめる。

「るり……?」

「貴方が教えてくれたのよ。この勿忘草の別名は“ルリソウ”って言うんだって」

「うん、良い名前だ。この子にぴったりだよ!」

僕はすやすやと眠る娘の側へ行き「るり」と呼んでみる。
るりは返事をするように小さな指を微かに動かした。

「るりが大きくなったら、今度は3人で行こう」

「うん、約束ね!」



2/3/2023, 9:55:20 AM