広大な畑が、私の横を駆け抜けていく。
それをぼんやりと眺めているとふとスマホのバイブが鳴って、一気に現実に引き戻された。視線を落として通知を確認する。
『ごめん! 今起きた!』
手を合わせる猫のスタンプと共に送られてきたそのメッセージに適当に返事をする。目を閉じて、今日のスケジュールを頭の中で組み直した。
1時間に2本しかない、片道1時間900円の電車。
それが、私たちのような学生が片田舎から街へ繰り出すための唯一のルートだ。
今から慌てて準備しても彼女が着くのは約束の時間よりも90分ほど後だろう。その間、時間を潰さなければならなかった。
幸い、街……というか駅前は1日遊ぶのに困らない設備が揃っている。その1割でもこちらに分けて欲しかったものだが、結局は人の集まるところが発展するのだ。
せっかくだからテレビで見たあの雑貨を探してみようか。全国展開している企業のものだが、地域によっては入荷しないこともある。新発売と宣伝されていたチョコレートが並んでいなかった時の悔しさたるや。そうだ、昼食も食べてていいという話だったからご飯も探さなきゃ。
「次はー、鴎沢ー、鴎沢ー……」
鴎沢、というのは私の目的地……ではない。あと3駅先だし、あと30分はこのまま乗っていないといけない。快速に乗ってこれだ。
少しずつスピードを落としていく景色とは反比例して、それまでまばらだった民家の数が増えていく。道路が整備されてきて、大きな店の看板が点在するようになった。鴎沢は快速が止まるだけあって人口はそれなりなのだ(比較的、という話だけど)。
街への道のりを考えると不便極まりないのだけど、こうして車窓を眺めるのは結構好きだ。だだっ広い畑から草木生い茂る山の中まで様々な景色を観れるのは意外と飽きない。人の集まる場所をわかりやすく観測できるのは田舎の特権だと自負している。
もはや街よりも車窓を楽しみにしているんじゃないかとさえ思える。一人の時はわざわざ普通列車に乗ることもあるぐらいだ。
やがて、電車が完全に止まる。駅に着いたのだ。
いっそ普通列車に乗り換えようかとも考えたが、電車が来るのを待つ方が長すぎる。一応は約束がある身なので、このまま座っていることにした。
街に着いてしまうまで、あと30分。