いつもと同じように目が覚めて、同じような一日を過ごす。そんな日々を、退屈だなんて思ったりする。変わりばえのしない日常を、いとおしく思うことなんて、忘れてしまっている。
ああ、そのために、何かその穏やかな日常を奪うようなことが起こるのだろうか。平穏な日々がいかに素敵な時間だったかを思い出すために。
「平穏な日常」
カフェでくつろぎながら、窓の外を見る。気温は低いけれど、日差しはずいぶんと明るい。その温かい日差しが、そこを通る人たちの厚手のコートを、妙に白く見せる。
ああ、こんな日差しを見たことがあるなと思う。学生の時、学校の庭で飲み物を手に座っていた時だろうか。あの時も、風が冷たく日差しが暖かだった気がする。春が近い、そんな日の色だ。
ハトが二羽、どこからか飛んできて、並んで地面を歩き出した。トコトコ、二羽の歩調が合っている。その横を男女が歩いていく。その歩幅もまたぴったりと合っている。不思議だ。その光景は、なんだかとても幸せだと思った。
「愛と平和」
この日のことは、目に焼き付けよう。記憶に残しておこうとずっと大切に心の中に保管し続けている。
でも、いつの間にかその記憶は、何となくぼやけてしまって、本当に確かなものだったのかさえ、あやしくなっている。いいことも、悪いことも思いだけが残っている。
これからも、だんだんとその輪郭があやふやになるのなら、自分の中だけでは、いいように書き換えようか。そして、こっそりと秘密の引き出しにしまってしまおう。
「過ぎ去った日々」
たぶん、ほとんどの問題は、お金で解決できる気がする。だからお金はある方がいい。そのほとんどの問題から外れるものは、人から得られて自分ではどうしようもないもの。
それだけは、お金では買えない。むしろお金がたくさんありすぎることで、困ったことだって起きるかもしれない。
お金より大事なもの。何をもって幸せと思うかは、人によって違う。お金なんかなくったって、この人がいれば幸せだ。こう思えることかもしれない。それが、たとえひとときの夢だったとしても、そのくらい心が動く時は、とても貴重でかけがえのないものだと思う。
「お金より大事なもの」
まだ夜になったばかりの空。下の方は、太陽の名残を残すオレンジ色に染まっている。上にいくにつれ、青のグラデーションになっていて、その一番濃いところに、三日月が浮かんでいる。
何とも言えない美しさに、立ち止まってしばらく眺める。この瞬間を残そうと、カメラを向けてみる。でも、レンズ越しに写る空は、何か違う。月は小さくて作りもののようだ。
本物は、もっと透明感がある。グラスに入った飲み物のような。オレンジジュースの上に、ブルーの液体が入って、三日月の飾りが浮かんでいる。または羊羹か。何色かが層になった手の込んだ和菓子。妙においしそうな感じなのだ。
でも、この瞬間は短い。オレンジ色はだんだんと青色に吸収されて、気付けばすっかり、濃い青色に覆われている。
「月夜」