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10/10/2025, 7:47:53 AM

 夕方、外に出るともう薄暗くなっている。日が暮れるのが早くなった。枯葉の匂いが混じったような、少し冷たい風が吹きぬける。昼間はまだ暑かったので半袖だった。歩き出すと腕がひんやりとする。

 「お疲れさま」。聞き慣れた声がした。隣の部署の人だ。「半袖? 元気がいいね」。長袖の薄いジャケット姿で、颯爽と通り過ぎていく。

「あれっ? あの人、あんな感じだったっけ?」。久しぶりに見た長袖姿のせいだろうか。秋の空気のせいだろうか。遠くなっていく後ろ姿は、いつもと違って見えた。

「秋恋」

10/9/2025, 9:25:37 AM

  愛しているつもりだけれど、それは愛なのだろうか。ただの執着なのではないか。
 
 そもそも愛するって何だろう。ただ、好きということは分かる。愛かというと分からない。愛とは? そんな単純なものではない気がする。これが愛だと勘違いしているのかもしれない。
 
 人を愛するなんて、すごいことかもしれない。自分さえもなかなか愛せないのに。それは、自分のエゴなのかもしれない。そんな気になっているだけなのかもしれない。

「愛する、それ故に」

10/8/2025, 9:12:45 AM

 人前に立って何か話をするのは苦手だ。
 いざ、話そうと立ち位置に行くと、静けさに足がすくむ。音はしないのに、前にいる人たちの気配が一斉にこちらを向く。意識のかたまりが、うわーっと押し寄せてくる気がするのだ。
 
 すると、怖いほどの寂しさが襲ってくる。たくさんの人がいるのに、その中でひとりきりだという感じがする。

 そう思った瞬間、頭の中が真っ白になる。ドキドキ胸の音がして、前にいる人たちの顔は見えているけれど、見えていない。自分の声が聞こえてくる。変な声? 足が地面から浮いているよう。ああ、誰か音を立ててくれないだろうか。話す間ずっとふわふわしたまま、静けさの中心にいる。

 
「静寂の中心で」

10/7/2025, 5:21:12 AM

 夏は、強い日差しの中、木々の緑が清々しさを感じさせてくれた。朝晩が冷え込むようになると、あっという間に葉の色が変わってくる。
 
 山も、赤や黄の鮮やかな暖色に染まる。もうすぐ枝から離れる葉が、その最後のエネルギーを放出する。それは、燃えているかのように美しい。

「燃える葉」

10/6/2025, 8:01:33 AM

 月が明るい夜は何だか落ち着かない。夜の闇に身を沈めたい、そんな気分の時も容赦なく照らしてくる。

 闇の中で、ひっそりとしているいきものたちも明らかになる。いくら身をひそめていても、青白い光が差し込んでくる。
 
 太陽とは違って、月の光はビロードのように、なめらかな輝きを放つ。そこにあるものは、青い陰影で形作られる。

 でも見上げると、月は白く清々しい顔をしていて、ずっと見ていたくなる。

「moonlight」

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