仲間たちと乗った車の旅は、おしゃべりが楽しくて、私はわくわくしていた。
山道を行きながら、後ろの席から運転する人を見ていた。密かに憧れていたその人は、運転が上手だった。カーブをくるりと曲がり、すいすいと行く。山の木立を抜けると、ぱっと青々した高原が広がる。周囲には、全く車も人もいなかった。
さらに進んでいくと、珍しく信号があった。そこでどのくらい止まっていただろう。助手席の人が、「あれっ? 信号変わらないね」と言う。運転する人と信号を覗き込んで、同時に「あっ!」と言った。感応式と書いてあったらしい。
「このまま気づかなかったら、ずっとここにいたのかもね」。山の中で、ずっとぽつんと止まっていたことがおかしくて、皆で笑った。でも、私は、もっとこのままでも良かったなんて思っていた。穏やかなこの時のことが、今も心に残っている。
「信号」
思い起こせば、言い出せなかったことが、たくさんある。それは、小さな後悔として心に残っている。素直に思いを言葉にしていれば。そのおかげで、ちょっとしたすれ違いコントみたいになったこともある。
最近、改めて思う。物事を見るとき、それは自分の基準を通してであって、それがほかの人も同じとは限らない。だから、本当の思いはわからない。もしかすると、あの時、あの人も。言い出せなかった言葉があるのかもしれない。そう思うと、心が少し軽くなる気がするのだ。
『言い出せなかった「 」』
なんとなくお互いに好意を持っていた気がするのに、付き合うということもなかった。でも、ずっと心の奥に残っている。消化不良の思いが、宙ぶらりんでいる。
その宙ぶらりんのものを、再び引き上げるとか、そんなものでもない。もう、あの時の状況でもなく、自分でもない。月日がたてば、それはもう何層にもなって、ステキにコーティングされている。
ただ、ふとした時に心の中からそっと取り出して、懐かしむものなのだ。
「secret love」
ページをめくる。あの感じが好きだ。最初のページは、そっと紙の感触を感じながらめくる。これから読むものへの期待を込めて。一枚一枚めくっていくうちに、手の動きなんて考えられなくなる時は、幸せだ。その世界にどっぷりと浸かっている。
瞬く間にページを重ね、残り数枚になる。終わりが見えていることが、手の感触でも分かる。はやる気持ちで、でも大切にページをめくっていく。そして、とうとう最後の一枚を読み終える。
静かにページを閉じると、満足感と軽い疲労感が押し寄せてくる。改めて手に、その重みも感じられる。紙の感触を感じながら読むことは、感覚的にも深く味わえる気がするのだ。
「ページをめくる」
涼しくなると、あんなに暑いのは嫌と思っていたのに、妙に夏のことが恋しくなる。海にも山にも行かなかった。夏を自然の中で楽しむことがなかったなと思う。砂浜は熱すぎる。山もたどり着くまでを想像すると、行くのは無理だっただろう。
今見る海も山も、あの夏真っ盛りのものとは違う。夏の姿を見られなかったのを寂しく思う。ふと空を見上げると、空はずっと高く感じる。晴れた日の高く見える空に薄い雲が浮かぶ。
あっ。下の方に分厚い白い雲がモクモクとあるのを見つけた。入道雲とは違うかもしれない。でも、夏の忘れ物を見つけた気がした。
「夏の忘れ物を探しに」