道を歩いていると、にわかに薄暗くなってきた。ポツっと雨がかかる。あっと思ったら、ポロポロと雨が落ちてきて日傘兼用傘では、かわしきれないほどになった。ゴロゴロ…。遠くで雷の音もする。ドキッとする。
またたく間に、足元がびっしょり濡れて、肩先も冷たくなってきた。ふと顔を上げると、シャッターの閉まったお店の軒先に、何人かの人が雨宿りしている。私もそこへ入った。
雨は、相変わらず激しく降っている。遠くの空がピカッと光ると、しばらくして、バリバリ、ドーン! 隣の人と思わず、目が合った。いやー、すごい。声には出さないけれど、そんな顔をし合った。誰かといることが、なんとなく心強かった。
5分くらい待っていると、少し雨足が弱まってきた。奥にいた人が、さっと傘をさして歩き出した。ほかの人も続く。雷が近づかないうちに、私も歩き出した。
「遠雷」
その深い色が好きだ。夜の空の色には、吸い込まれそうな魅力がある。
黒でもなく青でもない。もっと奥行きのある青。何層にも折り重なった薄い青の奥に、もっと深い青が隠れている。行っても行ってもたどりつかないような静かな場所がある。そこを覆うように、少しほの明るい青が、ちらちらと姿を見せる。その深さと薄さの揺らぎが美しい。
そして、真っ黒の闇よりも軽やかに、優しく包んでくれる気がする。
「Midnight blue」
机の整理をしていると、小さな箱が目に入った。旅行のお土産に君がくれたものだ。キャラクター好きの私にと、犬のチャームが入っている。もったいなくて、箱に入れたままにしていた。
チャームのわんこが、かわいい笑顔でこちらを見ている。いつも使うペンケースに取り付けた。箱のチャームを覆っていた紙を外すと、はらりと小さなカードが落ちてきた。
「相棒にどうぞ」。
ずっと、新しいことにチャレンジしようか迷っていた。がんばってみようかな。この小さなチャームと一緒に、飛び立ってみることにした。
「君と飛び立つ」
旅先で、バスが来るまで時間があった。炎天下で暑い。バス停の近くにパン屋さんを見つけた。こしあんとクリーム入りのあんぱんの写真が目に入った。あんこ好きなので、どうして気になって、お店のカフェで休むことにした。
あんぱんをさっそく一口。なめらかなこしあんの甘さと、甘さを抑えたクリームが口の中にふわっと広がる。ほんのりバターの香りがするパンとの相性もよい。よく冷えた店内で、コーヒーと交互に味わう。ああ、いい感じだ、また食べたい。
次の機会は、なかなかないかもしれない。
でもこのおいしかった思い出はずっと残る。
「きっと忘れない」
今、涙していいのだろうか。今、泣くことはおかしなことなのだろうか。泣くことにタイミングなんかないはずなのに、考えてしまう。
あの日、「なぜ泣くの?」と聞かれたから。
事あるごとに、すぐ涙する人もいる。悲しい時もうれしい時も感情がおもむくままに涙する。その自由さが、まぶしい。
泣いてはいけない、その思いがずっと足かせになっていた。
でも、色々な思いは心に重く沈んでいく。一つ二つと折り重なって心の容量からあふれ出すと、涙があふれてくる。ダメだと思うほど、次々とあふれ出る。
自分では、どうしようもない。それは必要なものなのだろう。湧き上がる感情をどんどん流すために、涙する。
「なぜ泣くの?と聞かれたから」