すっかりと冷えてきた気温に、ぶるりと全身を震わせながら自転車を漕ぐ。
今は夜勤明けの帰り道で、空はまだ暗い。
手袋もしていない手は冷えきっているが、それに構うことなく、アパートまでの道を走る。
10分ほど漕ぐとアパートが見えてくる。
ラストスパートだとばかりに、白い息を吐きながら進むと、やがて到着した。
キキィィィ……というブレーキ音を響かせた後、鞄から鍵を取り出すと部屋へ続く階段を上る。
そうして、手に握った鍵でドアを開けると、暖かな空気が全身を包んだ。
真っ暗な部屋は静かで、けれど、どこか安心する。
靴を脱ぎ、上着も脱いでハンガーにかけた後、チラりと寝室へと目を向ける。
おそらく、今日もまだ眠っているのだろう。
「ただいま」
そう声をかけて、覗き見たドアの隙間を閉じようとした瞬間、もぞりと布団が動く。
「……ん、おかえり……?」
眠そうに目を擦りながら、上半身を起こし、呟く彼女の視線はまだ定まっておらず、ぼんやりとしている。
起こしちゃったかな、と思いドアを開け、彼女の方へ近づくと、そのままぎゅっと抱き締められた。
「起こしちゃった? ごめんね、まだ寝てていいよ」
「大丈夫だ、問題ある……」
「問題あるじゃん」
うとうとした様子の彼女とそんなやり取りをしつつ、思う。
「あったかい」
「お布団入ってたから……体冷たい」
「外にいたからね」
俺の体が冷たいことに納得がいかないのか、抱きついたまま唸り声をあげる彼女。
「一緒にお布団被る」
言い終わる前に、ぼふっと布団を被せると、そのまま俺の手をとって。
「お仕事お疲れ様、手冷たいからぎゅってして寝る」
「ありがとう」
小さくて温かな彼女の温もりを感じたまま、目を閉じる。
疲れからかすぐに、睡魔が襲ってくる。
意識が遠のく直前まで、繋いだ手にぎゅっと力を込めていた。
【手を繋いで】
君に伝えたいことが、沢山ある。
いつも大好きだよって言ってくれて
ぎゅっと抱き締めてくれて、傍に居てくれて
話を聞いてくれて、髪を撫でてくれて
僕を愛してくれて、ありがとう。
こんなにも好きでたまらないのに
少しの孤独が寂しくて、すぐ落ち込んだり
泣いてしまったり、君を困らせているよね。
君は怒らないけど、その優しさに微睡んでいたくて
つい、心が揺らいでしまう
辛い思いをさせてごめんね
それでも、傍にいると、離さないと
そう言ってくれて、ありがとう。
君と僕は生きていく、 この先もずっと。