閑散とした住宅街を歩いていると、寂れた公園に行きあたった。平日の昼である。公園には人っ子一人いなかったが、ひと休みしようか、と私は近くにあったベンチに腰掛け、ふと足元に溜まった枯葉を見た。
木枯らしが吹く。そうして冬が近いことを、吸い込んだ空気に交じるキン、と澄んだ匂いから知った。
越してきて半年だった。
大学というモラトリアム特有の気怠さに流されながら、時折正気に帰っては妙な不安感に襲われている。今がそうである。言いようのない焦燥感が私の背中を追いかけ回し
私はその衝動から逃れようと必死だった。いっそ酷く羽目を外してしまおう、と少ない友人を誘って歓楽街にくり出しても、翌日目が覚める頃には後悔がついてくる。講義中であっても、その嫌な焦りが頭をよぎるのだ。
私は鈍色の雲に覆われた空を見上げた。
これがほとんど季節性の憂鬱であることを、私は知っていた。人は天気に支配されている。でも冬ってやつは、空が高くて鼻先をツン、と冷えた空気が刺して、そうして私と世界との境界線がくっきりと浮かび上がる、そういうものだと信じていた。いささか大げさな言い方だが、私は冬というものを、それしか知らなかった。知らない冬の気配に、心が引きずられて酷く落ち込んでいる。
ぼう、と足元を眺めていると、遠くから学校のチャイムが聞こえてきた。ドッと沸くような笑いが民家から漏れ聞こえる。たぶんテレビの音だ。あたりを見回せば、鳥の声と枯葉の擦れる音がしていた。
ほう、と息をつき、私はベンチから立ち上がった。雲は低く山間に垂れ込めている。雪になる前に帰ってしまおう、と私は公園を後にすることにした。焦燥はまだ胸に燻っていたが、帰るべき家があることは、私にとって一種の幸運であった。
閑静な住宅街を歩く。憂鬱が私の足を掴んで、暗澹へと誘っていた。しかしひとまずは、温かな食事をしてからでも遅くはないだろう。駆け出したいほどの不安を抱えながらも、私はゆっくりと帰路についた。