真夜中に目が覚めて
あるいは眠れなくて
ふとそこにあなたがいるのを
認識した
それは当たり前のようでいて
当たり前じゃなかった
あなたがいなくなってよく分かったというより
あなたがいないことにもう随分なれてしまったから
実感したことだ
頭の中に浮かんだ言葉が消えてゆく
そばにいないからその時に伝えられないですね
でもあのとき過ごした時間や満天の星をみたことは
私の中から消えないです
「ミッドナイト」
不安は自分で作る
安心は他人がつくるとどこかで 思い込んでいたのかもしれません それも間違いでした
今日 なぜかふと自分はどれだけ恵まれていたんだろう また今も恵まれているんだろうと 思いました
あなたがもう戻ってくることはないと
分かっている今も この瞬間も
私もあなたを大切にしようとしていたことだけは信じてください
この先 私の気持ちがもし変わっても
その時そう思っていたことは一生変わりません
こうやって軽い言葉を吐き続け
もしあなたが 私と再会しても
あなたにとって私は今までとは
違う顔に見えるということは 分かっています
「不適格人間の独白 #1」
なぜみんな同じことを言うのか
外に出なさい
人と関わりなさい
もっと頑張って
はみだすと蔑まされ同情され
皆が言う光に背を向けてやる
私は私の光を探す
存在を際立たせる
「逆光」
私はなぜあの日 、あなたに背を向けて 帰ってしまったのだろう
それ以来 、あなたの夢を見る時は
それがどんな夢でも
あの日 一晩 一緒に過ごしたという設定になっている
もしかしたら、 あなたが 出てこない夢の中でも
そうなのかもしれない
ある日こんな夢を見た
深い森を抜けると 、大きな建物がある
その中にはたくさんのベッドが並んでいた
どのベッドの上にも抱き合う 私とあなたがいる
けれど、そのうちの一つのベッドの上にだけは
私しかいなくて
私はベッドから出て森へと帰ってしまう
きっと、それが私の本質なんだと思う
それを認めた上で
もう一度あなたに会うことができたなら
あの日なぜ私が帰ったのか答えがわかるのだろうか
その日その時間、街角のある小さな劇場の前で、
僕は具合が悪くなり道端に座り込んだ。
そのまま しばらくすると、 ある若い女性が僕に声をかけた 。
「大丈夫ですか?」
僕は冷や汗をかきながら目を見開き、女性の方に顔を向けた。 心臓は早鐘を打っていた。
そこにいたのは僕自身 想像もしていなかったような 若く美しい女性だった。
ただまっすぐに 対象を捉えた、何の疑いもない視線だった。
「よかったらこっちに座ったらどうですか?」
彼女は 劇場の入り口付近にある小さなベンチに僕を促し、その隣に座った 。
「本当に大丈夫ですか ?」
「大丈夫です 少し気分が良くなりました」
なぜか 罪悪感を感じながら僕が答えると、彼女は少し安心したようだった。
「この劇場の関係者の方ですか?」
「はい 、あ、いいえ 私、今日ここでする芝居に出る役者なんです 」
「そうだったんですか お忙しい時にすみません」
「いいえ、 まだ時間があるので大丈夫ですよ 。あな
たも、もう少しここに座ってらしたらいかがです?」 「そうですね 、良かったら気分が落ち着くまで少しお話しさせてください」
そうして僕は彼女と他愛のない話をし、少しの時間を過ごした。
「 おかげさまで 気分がすっかり良くなったので 、
今日上演するあなたのお芝居見てもいいですか ?」
すると彼女の顔は パッと明るくなり、
「本当ですか?でも大丈夫ですか?」
と、嬉しさと心配が入り混じった顔で言った。
「ええ 本当に大丈夫です」
僕が安心させるかのように笑いながらそう言うと、
彼女はにっこりと笑い、嬉しいと言った 。
その瞳は僕がまだ若い頃に、病室で最後にあった母の 顔を思い起こさせた 。
僕が3歳の時に男と蒸発し、僕と父を捨てた母だった それから 一度も会ったことがなく、正直何の記憶もなかったが、病で余命いくばくもないと母方の親戚から連絡が入り、会いに行ったのだった 。
母は僕にすがりつき、涙を流しながら許してほしいと言った 。
僕は何も言えることがなく、ただ母の 痩せ細った肩や 小さな頭をさすることぐらいしかできなかった。
ひとしきり泣いた後に、気分が落ち着いてきたのか母は僕が小さい頃の話などをした。
そして 急に 病室にあった小さなメモを取り出し 、
何かを思い出すかのように 一生懸命書いていた。
「 私もあなたぐらいの歳の頃は未来の幸せや希望を疑っていなかった。今の私の唯一の希望はあなたよ、こんなに立派になったあなたと対等に話せるのは、
あの頃の私ぐらいだわ。
もし、未来にタイムマシーンが作られたとしたら、
その時の私に会いにきてほしい」
この人はきっと病でおかしくなってしまったんだ。
同情心からか僕は黙ってその差し出されたメモを受け取った。
「ありがとう 嬉しい」 そう言って 力なく微笑んだ母の瞳の奥と、今目の前にいる美しい女性の瞳を重ね合わせた 。
「そろそろ私行かないと、あ、ちょっと待っててくださいね 」
そう言って彼女は、近くの自動販売機からお茶を買い 僕に渡した。
「よかったらこれどうぞ、 じゃ私行きますね」
くるっと背中を向け、彼女は楽屋の扉の方へ向かって行った。
誇り高いバラの花のように、すっとまっすぐに立った 彼女の後ろ姿を、僕はいつまでも眺めていたかった。
バタンと楽屋の扉が閉まると、
僕はうつむき温かいお茶を持った手の中にある、
この日この時間この場所が書かれた小さなメモをぎゅっと握りしめた。