お題:月夜
お題:たまには
「ねぇ、七海サン」
「なんですか?」
ソファで読書をしているところに、甘えたような声色で呼んでくる彼。何事もなかったような返事をする。
「最近いっつも俺から誘ってばっかりじゃないですか?」
「そうでしたか?」
「そうです!」
「そうですか」
語気を強める彼を尻目に、はやり何事もなかったかのように淡々と答える。
「だから、たまには七海サンから誘って欲しいんですけど……」
上目遣いでお願いされると弱い。彼はわかっているのだろう。どうしても靡いてしまう自分がいる。
「……はぁ、わかりました」
パタリと読みかけの本を閉じる。
そして隣に座っていた彼の唇を徐に奪う。触れるだけの可愛らしいものではなく、もっともっと深いものだ。
「ん……ふ……」
歯列を割り、上顎を擦る。その間からはくちゅくちゅといやらしい水音が響いている。その音がより興奮を誘う。角度を変えて吸っていると、彼の舌もそれに答えてくる。酸素が足りず、うまく息ができない。頭がぼーっとしてくる。それでも彼は逃してはくれない。これではどちらが仕掛けたかわからないではないか。飲みきれなかった唾液が口の端から溢れ、それを舐め取られる。キスが終わる頃にはすっかり身体が熱を帯びていた。
「猪野くん……」
唇が触れるくらいの距離で甘く囁く。
「続き、してくれるでしょう?」
彼の足の間にそっと触れると、そこは既に兆しているようだった。キスだけでこんなになってくれるなんて。嬉しい。
「……七海サン、ベッド行きましょう」
低い声でそう言うと彼はすっくと立ち上がり、こちらの答えも待たずに歩いてゆく。半ば強引に手を引かれて寝室へ連れて行かれた。
この後、焚き付けてしまった猪野にいつも以上に愛されてしまうことを、今は知る由もなかった。
お題:大好きな君に
お題:ひなまつり