香水
優しくて
繊細で
それでいて芯は強い
そんな人だった
その人が来るのは香りで分かった
いつも同じ香水を纏っていた
その理由も
なんの銘柄なのかも
ついぞ聞けなかった
ある時気づいた
香水は
あの人の涙なのだと
涙で
テリトリーを作り
自分自身を守っているのだと
脆くて
折れそうな自分を護り
奮い立たせる
あの人にとって
香水は
涙のアーマー(鎧)だったのだ
あの人は
今も
アーマーを纏っているのだろうか
それとも
言葉はいらない、ただ…
私は言葉が欲しかった。
愛してるよ
可愛いね
お前が1番大事
お前は望まれて生まれてきたんだよ
時にはハグを
時には手を繋いで
優しい眼差し
微笑み
そのどれも
与えられなかった。
私はカンの良い
可愛いくない子供だったから
与えられない と悟るや
求めもしなかった。
思う
幼いあの頃
足で大地を踏んで
両手を握りしめ
肩を戦慄(わなな)かせ
まなじりには涙さえ浮かべ
なんで私を放っておくの⁉︎
私を見てよ!
そう訴えれば何か変わったのか と
わからない
わからないが ただ 今
幼い私を切なく思う
愛おしく思う
向かい合わせ
カンバセーションチェアという椅子がある。
2人もしくは3人が座れ、其々が互いの顔を見ずに会話が楽しめるいう。
ヴィクトリアン時代の後期に製作されたカンバセーションチェア。その名の通り、当時の高級サロンなどに使用され、訪れた客人達がおしゃべりを愉しんだ、らしい。ネットより引用。
昔何かのスパイ映画で、効果的に使われていたような気がする。
また、ヘッジホッグスジレンマという言葉がある。寒さに震える2匹のヤマアラシが
暖め合おうと近づくが、近づき過ぎると
お互いの体のとげが刺さって痛い。
しかし、離れ過ぎると寒い。
つまり、人は近づきすぎると傷つけ合ってしまう。 また、傷つけ合うことを恐れて距離を置きすぎると、今度は疎遠になりすぎて
仲良くなることができないという意味、
らしい。引用。
それを踏まえて。
我が家の炊飯器のしゃもじ立ては、
炊飯器にくっついて向かって右側にあり、
しゃもじの窪んだ面を内側に、
炊飯器と向かい合って立てると収まらず、
窪んだ面を外側に、そっぽを向いて立てるとうまく収まる。
そこで思い出す。
カンバセーションチェア。
ヘッジホッグスジレンマ。
ひとはひとと向かい合う時、
それくらいの距離感がちょうどいいのかも
しれない。
西日の当たるキッチンで、
しゃもじを見つめて思うこと。夏の日。
鳥のように
鳥のように、自由に。
よく言われる
鳥だって自由ではない
クリッピング 風切羽を切られ
籠の中で一生を終える鳥もいる
どちらを選ぶ?
まだあなたは選べる立場にいる
風切羽を切られたって
生え変われば飛べる
籠の鍵を持っているのも自分
外の世界を決めつけているのも自分
さあ
「翔べ」
さよならを言う前に
低く滾(たぎ)るSE
物語の始まる前
観客はまだ仮面を付けて
演者は籠(かご)の中
一瞬の静寂
暗転
観客は仮面をかなぐり捨て絶叫
演者はそれぞれの翼をはためかせ
七色の空を飛ぶ
そして
その時は来る
夢の終わりが
さよなら
そう告げるより
残された時間一秒ごと
愛し合おう