ことり、

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10/25/2023, 3:48:29 AM

行かないで

またか。私は勤務先のロッカーの前に
立ち尽くした。
履き古しのどた靴が5.6足も
詰め込まれている。
誰の仕業か分からない。この3ヶ月、1週間か10日に1度くらい、思い出したかの様に
起こる。

そんな朝をやり過ごし、靴は職場のゴミ箱に押し込み、夜は予約していたいつもの店へ。
12年前に亡くした娘の、今日は誕生日だ。
前菜、スープ、メインのステーキ、
25本の蝋燭を灯したバースディケーキまで、
食べ続けた。


会計の時、
「12年間私の悲しみに
付き合ってくれてありがとうね。娘も25歳になりました。」
と頭を下げた。しかし、レジの女の子は
なんとも言えない表情をして、オーナーを
呼んだ。
私は同じことを言おうとして制された。
「申し訳ないが、
この店は去年オープンしたばかりだ。
その前は日本料理屋だった。そしてあなたは
今日が初来店だ。
何か勘違いされていませんか。」

そこから、どこをどうやって家まで帰ったか、覚えていない。
そもそも、ここも私の家なのか。
朝の出来事だって、噂されてなかったか。
『自作自演…』と。
脳裏に、ゴミ捨て場で靴ばかり漁る自分の姿が浮かんでくる。
いや、そんなはず、そんなはずない
わたしはーーー

私の脳は、記憶は、どこに行こうとしているのか。

不意に部屋の扉が開いた。
「お父さんお帰り。ずいぶん遅かったね。
今日私の誕生日だって、忘れちゃった?」

私は声にならない叫び声を上げた。

10/23/2023, 10:29:22 PM

どこまでも続く青い空

どこまでも続く青い空の下には
君の笑顔が眠っている
噴水の下で水を跳ね返しながら
アイスクリーム屋さんでフレーバーを迷いながら
波打ち際に座り込みながら
この夏、君はいつも笑顔だった

10/22/2023, 12:48:34 PM

衣替え

季節が来て
衣装を替えるように
あのひとを脱ぎ捨てるの
サッ

10/21/2023, 4:10:50 PM

声が枯れるまで

声なんて
潰れてしまえ
明日
学校で
会社で
笑われてもいい
最愛の推しの名を呼べる今この時
心臓が痛い
手が震えて
足もがくがくするのに
名を叫ぶのを止められない
もう
声なんて
潰れてしまえ

この時
この時だけ

10/20/2023, 2:09:09 PM

始まりはいつも

えぐり出す
臓物の奥の
真っ黒いカタマリ
血まみれでごとり、と音がして
食卓に置かれたナニカ
わからない?わかるだろう?
君の涙腺結石さ
涙だって溜めておくと
石になって痛むんだ
意思を持って滞(とどこお)るんだ
本当は泣きたかったんだろう?
あのときも このときも
あのひとの前で あのひとの前だからこそ
久しく無かったろう?
声をあげて泣くコト
『ボクは泣かない 泣いちゃいけない』って
ココロの扉 鍵をかけて 
鍵は飲み込んだんだろう?
そのココロの鍵 溶かすのは実は
君のナミダだけ

ほら開くよ ココロの扉
怖がらなくていい 恐れなくていい
怖がっているのも 恐れているのも
世界(コッチ)の方だから
…何が見える?
…何も。真っ暗だ
…ココはいつもそうさ。始まりはいつも…

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