灯台守のトーチ
魔法使いのリリは、この辺りでは
腕利きの魔法使い。
足腰の痛みをとるせんじ薬や、
失せ物が出てくるおまじないなど、
皆んなが頼りにしている。なかでも、
今の季節のヒット商品(?)は…
「惚れ薬ね」
リリは、女学校の生徒たちから大口の注文が入ったと、忙しそうだ。
「やっぱり秋の注文が多いかしら。
人肌恋しくなるっていうか」
リリはトーチと同じ年頃の15.6才。
なんだけどこの仕事をしてるからか、
ませている。
亡くなったおばあから仕事を受け継いだ
ところとかは、トーチと似ている。
金色の瞳、ばさばさの長い黒髪をふたつに束ねて、時々眼鏡も掛ける。
眼鏡は、文明の利器なのでは、と思うが、
今は古き良きものと新しき良きものを
分け隔てなく使う時代。
魔法使いがいて灯台がある時代なのだ。
「ところで、惚れ薬の材料って何?」
トーチは聞く。
「そうね、オレンジジュースやシナモンを
使った美味しそうなものから、
カマキリの黒焼きを使った不味そうなもの
まで多種多様よ」
「カマキリ!それは僕には使わないでね」
リリは真っ赤な顔になった。
「馬鹿!誰がトーチなんかに!」
僕は灯一。灯台守の灯一。
皆んなからはトーチって呼ばれてる。
カマキリなんて、一般的に不味そうという
意味で使ったんだけど、
リリまだ怒ってるかなあ。
10代。
大好きなバンド。
地元でのライブ。
奇跡の1列目ど真ん中。
初めて買ったシングルの曲。
ギターソロを足にしがみついて聞いた。
あの時ほど時間よ止まれ と
思ったことはない。
私の人生の間違いなくハイライトのひとつ。
懐かしいな…
「夜の花畑もオツなもんねえ」
つい独りごつ。
夏の間だけ解放される花畑。忍び込んだ。
懐中電灯に照らされる向日葵。
時々人みたいでギョッとする。
遠くには灯りのついた高層ビル。
まだ頑張ってるんだね。
友達と来たかったが、
忍び込むというとみんな及び腰。
そりゃコンプラ的に大人的にグレー、
いや黒か。
夏も終わる。
最後にちょっとだけ、いいじゃない。
脳天に沁み渡る滴(したた)り
二月の雨
穴の空いた黒い靴 意味を成さない黒い靴
侵入する雨 身体を満たす
どこにも行けない どこにも居れない
身体が重い 心が重い 想い
想いで満たされてる
言葉は吐かれるのを待っている
言葉で描かれるのを待っている
待っている
待っている…
君からのLINEはいつもそっけない
何してる?元気?
そうなんだ
おもしろいね
そっか
じゃあまたね
顔文字もない
それなのに
来ると嬉しい
またちょうだいね