忘れたくても忘れられないと、泣きじゃくる彼女をそっと抱き寄せる。
彼女に巣くう苦しみの全てを、僕が分かってあげることはできないけれど。
忘れたくても忘れられないものが、少しでも記憶の隅に薄れればいいと。
僕は彼女の背中に回した腕にぎゅっと力を込めた。
【忘れたくても忘れられない】
やわらかな光を授かったような、そんなあたたかな気持ちにさせてくれた君と、君の腕に抱かれている小さな命に、僕は精一杯の感謝を捧ぐ。
【やわらかな光】
君を好きになったきっかけは
その先にある未来を常に見据えて
どんな逆境にも怯まず立ち向かっていく時に
ふいに見せる
その挑むような鋭い眼差しでした
【鋭い眼差し】
高く高く飛べるようになりたい
そう望んで見上げていた場所へ
この手が届くようになると
さらにもっと高い場所へと
手を伸ばしたくなる
いつかどこまでも高く
飛んで行けるようになったら
今度はきっとこの世界の広さを
確かめたくなるのだろう
【高く高く】
子供のように無邪気な顔で。
周囲に笑いかけている彼女が。
本当は嘘吐きなことを知っている。
実はすごく頭が良くてけっこう打算的。
おっとりしてそうな雰囲気を出しながら、しっかり者なうえ、どことなく完璧主義な彼女。
疲れたと言って仕事の愚痴を吐き出し。
ストレスから来る頭痛に時々悩まされている。
「ごめんね。こんなに情けなくて」
月に一度の頻度でナーバスになる彼女は、耐えきれなくなると涙を流しながら僕に謝罪する。
子供のように泣きじゃくりながら、僕に八つ当たったり、ワガママを言ったり、手のひらを返したように甘えてくるものだから。
「そう? こんなに泣いてる君を見るなんて貴重だから、僕は役得だと思ってるけど」
お茶らけたようにそう言えば、泣き顔のままポカンと口を丸くした彼女が、次の瞬間、「そんなこと思うのはきっと貴方だけだよ」と、フフフっと口元を綻ばせた。
【子供のように】