嵐が来ようとも
誰かが守ってくれた幼少期
嵐が来ようとも
見て見ぬふりをしていた青年期
嵐が来ようとも
動じない心が欲しいと思った壮年期
嵐が来たら
避難して待つ事を覚えた老年期
祭囃子が聞こえる。
だんだんと近づいてくる。
半分夢の中でも必死に考える。
いつ寝落ちしたのだろう…
傍に落ちたスマホの充電はカラだった。
ケーブルに繋いで、生き返った画面を見たら、一気に目が覚めた。
彼女の愚痴を聞いている最中だった。
LINEの最後には一言。
『大嫌い』
〝別れる〟じゃなくて〝大嫌い〟
そんな事で少し安心する。
電話をかけ直しても出てはくれない。
ま、想定内。
『花火を見に行こう』
と、LINEをしてみたら既読スルー。
ま、想定内。
さ、シャワーを浴びて、迎えに行くか。
子供の頃から、花火は一緒に行っていた。
約束する事もなく、なんとなくいつも。
慌てて大事な物を忘れないように…
スマホと一緒に置く。
もう代わりなんて考えられないから。
神様が舞い降りてきて、こう言った。
あなたの寿命と宿命と運命を教えます
そう言って、俺がこの世に生まれようって時に、長々と一生分の話をしてくれたのは覚えているが、内容は全く覚えてない。
ドラマチックな人生だったかもしれないし、そうじゃなかったかもしれない。
忘れたって事は、そんなもんなんだろう。
それで良いんじゃないか?
誰かのためになるならば、悪役を引き受ける。
そんな人が減ったなぁ〜と思う。
誰かに手を貸したり、助言したり…
そんな当たり前の事が難しくなっている。
そんな気がする。
事務室の若い子に備品の補充をお願いした時、在庫の場所が分からなくてウロウロと探し回っていた。
部屋には20人弱居たけど、誰も彼女に助言した者は居なかった。
時が過ぎる程、部屋は異様な雰囲気になっていった。
教えてあげたいけれど…
ウザがられるかな?
みんな、爪先立ちの前傾姿勢をキープしている様な、そんな感じ。
私は部署が違うので、彼女には教えてあげられず、他の人にも頼み難く、どうしたものかと思っていたら、外出先から戻った室長が事態を収束してくれたのだった。
事務室のみんなが息を吐いた気がした。